[今日はこれで語り明かそう] 父はリュックから二階堂<麦>の瓶を取り出した。 コロナウイルスなどまだ誰も全く知らぬ頃、二階堂は居酒屋の支払いが嵩み、財布の中身が寂しくなる一方の父達の前に現れたメシアともいえる存在だった。 なぜ居酒屋の支払いが高くつくのか。 この難問の前に父と友人達は頭と財布を抱えていた。 喧喧囂囂のとっつかみ合い寸前の議論の末、一つの結論が出た。 各々が自由気ままに己の好きな酒を注文するから酒代が嵩むのだ、と。 飲み会の数が多すぎる という真実
父は思い描いていた。 キャンプの夜に焚き火を囲い、友と語らい過ごす夜を。 話は前後するが実は父はテントを買う前にあるキャンプ道具を手にいれていた。 焚き火台 聞けば焚き火をするためにキャンプに行くキャンパーもいると言うではないか。 父が手に入れた焚き火台は LOGOS the ピラミッドTAKIBI その名の通り逆さまにしたピラミッドのような形で、ピラミッドの底面部分がぱっくりと開いている。 どんな薪でもがんがん燃やしてやるぜ といわんばかりの開き具合である
父は激怒した。必ず、かの邪智暴虐の転売屋を除かねばなるまいと決意した。 父にはキャンプがわからぬ。 父はひよっこである。 けれどもキャンプをしたいと近頃思い始めていたのた。 父は以前にアウトドアショップで偶然素敵チェアに出会った。 その時のトキメキが忘れられず父は眠れぬ夜を過ごした。 ネットで調べてみるとその素敵チェアの名は Helinox チェアツー と言うらしい。 父が驚いたのはその値段だ。アウトドアショップで確認した値札は確かに6000円くらいだった。 それ
父と妻は新感覚チェアにすっかり魅了され、本来の目的を忘れかけていた。 ベビーカーに載せたままの子がしびれを切らして もっと俺に注目しろ と暴れだしたことで父は本来の目的を思い出した。 そうだ、テント買わなきゃ 父は新感覚チェアに別れを告げた。 このチェアとはまた出会うことになるであろうな、 と父は直感していた。 まぁ、要するにこの椅子が気にいったのだ。 父はテントコーナーの棚の前に立った。 突然だが、ここで父の奇妙な生態について語らねばなるまい。 父は店に
妻の不吉な発言は聞こえなかったことにして父はアウトドアショップに転がりこんだ。 その店は父の生息している地方で最大級の大きさを謳っており、入ってみるとなるほど確かに広大な店だ。 入り口を中心にして左手にアウトドア用品、右手にアパレルとエリア分けされている。 父はその店の大きさに圧倒されていた。 これ全部キャンプ用品売場なの? と [これは心してかからなければ喰われるな] と気を引き締めていると、 [わたしこっち見てくるから] と妻はベビーカーを押しながらアパレル
素敵なキャンプを成功させるには素敵なキャンプ道具が不可欠である。 父はその素敵キャンプの屋台骨とも言えるテントを購入することを決意した。 父とキャンプの歴史は酒の席で酔った上司が唐突に始める説教より浅く、内容が無いので、語るに値するようなことは何もない。 ただ、唯一の思い出として残っているのは小学生の頃に地区の子供会でキャンプに行ったことだ。 当時、[現代の子供]を地で行く父はそもそもこのキャンプに乗り気ではなかった。 夏はクーラーの効いた部屋でコーラを傍らにテレビゲ
まず初めに断っておかねばいけない。 この記事を読んでもお洒落かつ無骨なキャンパーにはなれないだろうし、お得なアウトドア情報も得ることはできない。 では、この記事は何か。 これは一人の男が如何にしてアウトドアを始め、その魅力にとりつかれていったかを記した観察記録である。 父(私)には妻と二歳になる子が一人あった。父は昨年、齢30をとなり、大きな節目を迎えた。 かつてミスタージャイアンツこと長嶋茂雄氏は還暦を迎えた年のインタービューでこう答えた。 [初めて還暦を迎えた