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父と、焚き火台と、冬 ①

父は思い描いていた。
キャンプの夜に焚き火を囲い、友と語らい過ごす夜を。


話は前後するが実は父はテントを買う前にあるキャンプ道具を手にいれていた。

焚き火台


聞けば焚き火をするためにキャンプに行くキャンパーもいると言うではないか。

父が手に入れた焚き火台は

LOGOS the ピラミッドTAKIBI 

その名の通り逆さまにしたピラミッドのような形で、ピラミッドの底面部分がぱっくりと開いている。

どんな薪でもがんがん燃やしてやるぜ

といわんばかりの開き具合である。

ピラミッドの先端部の先に灰の受け皿もついていて後片付けも簡単そうだ。

組み立て式の焚き火台で、折り鶴もまともに折ることができない父でもいとも簡単に組み立てることができた。

父は部屋の中で組み立てたピラミッドグリルを見て満足そうに頷いた後、


早く使ってみたいよぉ!

と、寝ころんで手足をバタバタさせた。



しかし、父がピラミッドグリルを手に入れたのは寒風吹き荒み、草木も凍る2月の真冬の頃だった。

この寒さではピラミッドグリルの出番ははまだ先のことだと思われた。


2月の凍てつく寒さも父の焚き火をしてみたいという熱い気持ちを冷ますことはできなかった。

阿保の勢いは暫し常識を超越するのである。
良くも悪くも。



父には友があった。健やかなるときも、病めるときも、彼女が欲しいと猛り狂った若き日も、共に過ごしてきた竹馬の友だ。

父は友に電話をかけた。

[焚き火台買ったんやけど、焚き火せん?]

[いいよ]

[今月やで?]

[うん]

[寒いで?]

[構わん]

一流は一流を知ると言うが、阿保は阿保を知るのである。

こうして真冬の焚き火会の開催が決まった。

焚き火会当日、19時に父はぶくぶくに着膨れて外に出た。

会場は近所の河原の橋の下だ。

間もなくして同じようにぶくぶくに着膨れた友が現れた。

[おい。ナイロン生地のアウターは火の粉で穴が開くからやめておけと言っただろう]

[俺にできる最高の防寒をしてきた]

友はシャカシャカするアウターとズボンを自慢気に見せびらかした。

[いいのか? お前のアウターはそれしか見たことがないぞ。一張羅に穴が開いても知らんぞ]

[構わん。覚悟の上だ]

なるほど。太い野郎だ。と父は密かに友を見直した。

[それより、早く火を起こしてくれ。寒くて立っていられん]

その時の気温は2℃くらいしかなく、寒風が首もとから足元から入り込み容赦なく父と友の体温を奪っていた。

父は早速火起こしにとりかかった。

初心者キャンパーのあるあるとして、なかなか火が起きないということがあるだろうが、事前に薪ストーブ屋に行き、言われるがままに太い薪と焚き付け用の細い薪と着火材を入手していた父に死角は無かった。

火は呆気ないほど簡単に起きた。

内心は上手に火起こしができるかひやひやで、火が無事起こった時は飛び上がりたいほど嬉しかった父だが、友の手前いたって冷静に

[まぁ、アウトドアを始める者として火起こしくらいできて当然ですわな]

という風を装った。

何はともあれ、無事火が付いた。

焚き火会の夜は幕を開けた。



続く











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