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父と、素敵チェア

父は激怒した。必ず、かの邪智暴虐の転売屋を除かねばなるまいと決意した。

父にはキャンプがわからぬ。
父はひよっこである。
けれどもキャンプをしたいと近頃思い始めていたのた。


父は以前にアウトドアショップで偶然素敵チェアに出会った。
その時のトキメキが忘れられず父は眠れぬ夜を過ごした。

ネットで調べてみるとその素敵チェアの名は

Helinox チェアツー

と言うらしい。

父が驚いたのはその値段だ。アウトドアショップで確認した値札は確かに6000円くらいだった。
それがネットで見てみると約14000円もするではないか。

いくら人生で3回も財布を落としたことがある間抜けな父でも6000円と14000円の値札を見間違えるはずはない。

では、このアウトドアショップとネットの値段の違いは何であろうか。



転売屋だ…

父は戦慄した…

アウトドア業界を跋扈する転売屋の噂は聞いていたが、それを目の当たりにするのは初めてのことだった。

なんと恐ろしい…

父はガタガタと震えた出した。


しかし、腑に落ちないことが一つあった。

ヘリノックスの公式ホームページで確認しても値段は14000円なのである。

どういうことであろうか。


もしかして似ているけど全く違うチェアなのかもしれない。

あのアウトドアショップの店長が失恋のショックでやけくそな値段でヘリノックスを売っているのかもしれない



とにかく父は急ぎアウトドアショップを再び訪れることを決意した。



週末、アウトドアショップを訪れた父は件の素敵チェアに駆け寄った。

もしヘリノックスの椅子が6000円で売られていたのなら、即時完売もありえると考えていたがそれはなかった。

以前確認した足元の値札を見た…

6000円

背持たれのロゴは…

Helinox

父は勝利の雄叫びを上げた。




禍福は糾える縄の如し、塞翁が馬。
ピンチの後にチャンスあり。

父は背もたれの後ろにも値札がついているのを見た。

周囲の音が遠退いた。


まさか…

と思いながらも値札を手に取った。

そんな、そんなことがあっていいはずがない…

父は祈るような気持ちで値札を確認した。

14000円

父は膝からがっくりと崩れ落ちた。

では6000円の値札は何だったのか。


あろうことか父はヘリノックスのロッキングフットの値札を見て一人興奮していたのだ。

まさか椅子一脚が14000円もするとは思わなかった。

なにせ当時の父がもっている外用の椅子といえば友人とのBBQ用に買った980円のピンク生地に黒のドットという、街のファッションリーダー顔負けのセンスの折り畳み椅子しかなかった。


この件に関しては転売屋は何も悪くない。

ただ間抜けな男が一人、密かに己を恥じたのだった。

しかし父のトキメキはどうしようもなく

その場でチェアツー2を脚購入した

ロッキングフットも2つ買おうか迷ったが、それを思い止まるだけの冷静さは辛うじて父にも残っていた


とさ。



※父がヘリノックスに出会ったのは一年ほど前だ。
現在、改めてヘリノックスの値段を確認して見ると2万円近くになっていた。

ロッキングフットですら1万円だ。
その理由が転売なのか単に値上がりなのかはわからない。

とにかく、安易に腹を立ててはいけないということを父は学んだ。





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