父とアウトドアの始まり
まず初めに断っておかねばいけない。
この記事を読んでもお洒落かつ無骨なキャンパーにはなれないだろうし、お得なアウトドア情報も得ることはできない。
では、この記事は何か。
これは一人の男が如何にしてアウトドアを始め、その魅力にとりつかれていったかを記した観察記録である。
父(私)には妻と二歳になる子が一人あった。父は昨年、齢30をとなり、大きな節目を迎えた。
かつてミスタージャイアンツこと長嶋茂雄氏は還暦を迎えた年のインタービューでこう答えた。
[初めて還暦を迎えたもので…]
父も初めて30才を迎えた。
もう子供ではない。このままぼやっと生きていても有意の人材にはなれんぞ。
という自覚はあるものの、一体何をすればいいのか、
という難問の前に父は座り込み頭を抱えていた。
そんな悶々とした日々を過ごす父はある晩、寝床で天啓を受けたかのように閃いた。
[そうだ、キャンプしよ]
アウトドアとは一切無縁だった父だが昨今のキャンプブームは知らぬ内に父の琴線を確実に擽っていたのかもしれない。
近所に新しくアウトドア専門ショップができたことも父を後押しした。
星降る夜の下、焚き火を囲んで語り会う家族。彼らの瞳がキラキラと宝石のように輝いているのは焚き火の炎を反射しているからだけではないだろう。
そんな情景が父の脳裡に浮かんだ。
明くる日の朝、
[我々もキャンプに行かねばなるまい]
父は妻に高らかに宣言した。
[ほぉん]
と妻は答えた。
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