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巡る季節と変わらぬ想い

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庭師を想う次期領主の日常
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秋の庭で

前の話

 カンナが庭の香りを楽しみながら歩いていると、庭にある芙蓉の木の陰から楽しげな鼻歌が聞こえてきた。その鼻歌を歌っている主の心当たりをつけながら、歌い手に気づかれないように芙蓉の陰を覗き込む。
 そこには案の定、しゃがみこみ、芙蓉の根元で雑草を刈っている女性の姿があった。淡い金髪をショートカットにして頭に麦わら帽子をかぶった彼女は、庭仕事をするには向いていない、白いワンピースを着ている。そ

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花言葉は・・・・・・

「なんでこのクソ暑いのに生姜湯なんて飲む羽目に・・・・・・」
「ごちゃごちゃ言ってねぇでさっさと飲め」

 目の前には俺の仕事を邪魔しやがった領主の息子、カンナがいる。俺の故郷ではこんなことすりゃあよくて減給、最悪解雇されてたんだが、今の雇い主はいい。甘やかして傲慢な領主になるといけない、というのが教育方針で、悪さをした時にはこうして罰を与えても仕事に影響はない。
 罰と言っても可愛いもので、暑い

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この気苦労はいつになればなくなるのか

 夏。それは彼女にとって心躍る季節であると同時に、心を踏みにじられる痛みも伴うものだ。
 彼女の仕事は庭師。雇用主はこの城の城主だ。
 5代目になる城主の彼はこだわり派の人間で、庭師にもそれぞれ得意な季節とそうでない季節があると言い、季節ごとに異なる庭師を抱えていた。
 彼女は夏の城を彩る花を任されている。

 その彼女が憂鬱になることとは……
(あぁ、来てしまった)
 庭の手入れをしている彼女の

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