花言葉は・・・・・・

「なんでこのクソ暑いのに生姜湯なんて飲む羽目に・・・・・・」
「ごちゃごちゃ言ってねぇでさっさと飲め」


 目の前には俺の仕事を邪魔しやがった領主の息子、カンナがいる。俺の故郷ではこんなことすりゃあよくて減給、最悪解雇されてたんだが、今の雇い主はいい。甘やかして傲慢な領主になるといけない、というのが教育方針で、悪さをした時にはこうして罰を与えても仕事に影響はない。
 罰と言っても可愛いもので、暑い時に暑い生姜湯を飲ませる程度のものだ。・・・・・・もっとも、相手が生姜を苦手とするところを知っていれば効果は上がる。本人は隠しているつもりらしいが、親が親だ。何か悪さをした時用に、使用人を始め、城に勤務している人には時期領主の苦手なものは全て下達されている。
 生姜湯を飲んだカンナは、案の定顔を顰め、体を震わせていた。なにせ砂糖少なめの特性ブレンドだ。市場のものとは辛味が違う。


「・・・・・・なんで俺がこんなことしないかは聞かないの?」


 上目遣いにこちらを見るその目には、警戒心がありありと浮かんでいる。
 それを見た俺は思わずほおが緩むのを感じる。が、緩んだ頬をどうこうするつもりはない。カンナには悪いが、ニヤニヤしていたほうがダメージは大きいだろうからだ。


「んー?わからんなぁ。どうして向日葵を一輪持って行こうとしたかなんて。わからんなぁ?・・・・・・おっと、あんなところに日向が」


 視線をカンナの後ろに飛ばし、俺と同じく夏の庭の手入れのために雇われている同僚がいる風を装う。
 すると面白いようにカンナが後ろを振り返る。が、当然そこには誰もいない。


「おっと。悪い悪い。気のせいだったわ」


 振り返り、誰もいなかったことで、俺がどういうつもりでそういったのかを理解したのだろう。カンナが恐る恐る俺に向き直り、俺を見上げてくる。


「ど、どこまでわかってる?」


 そう聞いてくるカンナの目はかなり泳いでいる。
 そのカンナの肩に、俺は両手を置いた。


「カンナ、知ってると思うが、俺は庭師だ。庭師としてやって行こうと決めて、庭師の勉強をしている時に花言葉ぐらいは覚えてるさ」


 カンナが固まる。俺がわかる、ということは、同業の日向もわかると思ったのだろう。
 いや、カンナとしてはわかってもらったほうが都合がいいと思うのだが。


「・・・・・・日向もわかるだろうか」


 固まったカンナが、固い声を吐き出す。俺はニヤけていた顔を満面の笑みにする。


「賭けてもいい。わかるがお前からその言葉を贈られているとは思ってないだろうな!」


 俺の手の下で、カンナが崩れ落ちる。


「やっぱり・・・・・・。やっぱりか・・・・・・」


 俺は腰を落とし、カンナの肩を叩く。


「よかったな。わかって欲しくなかったんだろ?」
「日向にはわかってほしいけど、他の人には知って欲しくねぇよ!!」


 が、現実はかくも厳しい。気づいてほしい相手には気付かれず、気付いて欲しくない相手にだけ気付かれるのだから。


「まぁ・・・・・・なんだ。日向は仕事に一生懸命だからな。正面から言わないとわからないと思うぞ?小さい頃のお前の行動から、多分花を贈ってもこれはなんの嫌がらせだろう?と思われるだけだからな」


 カンナが勢い良く立ち上がった。
 お、ついにやる気になったか?と思うが、人の言葉一つで持った性格など変えられるわけがない。
 その俺の予想を裏切り、カンナは日向が作業しているほうへ向かって歩き出した。
 しばらくカンナの行動が理解できずに目を丸くしていた俺だが、理解すると慌ててその後を追った。これは楽しいことになってきた。
 俺がカンナの後を追い、日向がいると思われる場所へ向かう。
 少し離れた場所で二人が何かを言っているのが見えた。
 やがて、日向がカンナの頬を張る高い音が空に響いた。


 どうやら若き時期領主殿の道のりは、俺が思っている以上に険しいようだ。
 向日葵の花言葉は『私はあなただけを見つめる』。
 さて、カンナの言いたいことが日向に届くのはいつになることやら。


お題:向日葵、賭け、生姜
 

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