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牛板九由
2016年6月8日 18:05
誘拐事件から一夜が明け、双葉は事務所に来るようにと連絡があった。仕事に行けず、夜まで連絡を取れず行方不明となっていたから呼ばれることはわかっていた。そして現在三十分以上事務所にいるのだが誰も双葉の相手をしてくれない。とりあえずお茶でも入れて双葉の所属する部署の会議スペースで待っているのだが、誰一人として現れない。事務所に着いて最初に向かったのは総合事務室。マネージャーは双葉の仕事がないときは部
2016年6月1日 18:08
昼にショッピングモール入って騒ぎ続けて七時間。金髪にいかついピアスやネックレス、指輪を付けているこの一陣の中にアイドルである双葉がいるなど誰も思わないだろう。しかし黒髪が一人では逆に目立っているかもしれないが。フードコートで昼ご飯を食べ、ほぼ全ての店を見て回っても、誰一人疲れている気配はない。今の夜覇王はバラバラに活動しているので全員が揃うことはそうないし、気が合うからこそチームを組んでいるから
2016年5月25日 17:50
「おい、ボロボロじゃねぇか」「人のこと言えるか?」「うっせぇ。さっさと本気出せし」「そのままそっくり返すよ」翔と賢也は軽口をたたきながら笑っている。その言葉を聞いて顔を引き攣らせている羽田と古谷。「本気出せって、本気出していないのか?」「ああ」「もちろん」翔と賢也はさも当然というように言った。「うちのチームは共闘するとき先に本気を出した奴が負けっていう仕来りがあってよ」「だか
2016年5月18日 18:49
次々襲いかかってくる古書の主の下っ端を逆にボコボコにしたのは翔と賢也の二人だけだった。二人対二十数人の戦いはいとも簡単に終わった。翔と賢也の完全勝利だった。完膚なきまでの格の違い。体の使い方も力の出し方も経験の豊富さも何もかもが凌駕していた。「骨がないな、骨が。脊椎動物とは思えない雑魚さだよ」翔が心底残念そうに肩を落とす。しかしその頬は緩んでいる。その表情は誰が見ても嘲笑しているとしか見えない
2016年5月11日 12:32
ワゴン車が今見ている建物の近くで止まる。そこから出てきたのは三人のマスクを被った人と神谷双葉だった。誘拐されたというのにその女は抵抗しているようには見えず、自然な足取りで入って行った。その後、バイクが一台止まった。その人は身をかがめ、抜き足差し足のような動きで建物に入って行く。その次に来たのは荒々しくバイクを乗り回す金髪男だった。ドリフトを華麗に決め、先ほどとは対照に堂々と入って行く。「あの
2016年5月4日 12:10
逆光で顔は見えないがあの髪の色、あの立ち姿から誰だかは一目瞭然である。「キン、グ」「おいおいおい、じっとしておけ。ここからは俺が引き受ける。で、双葉ちゃんを誘拐したのはあんたらで間違えないな」「そうだとも」ボスと呼ばれる人が答える。「なら、準備はできてるよな」今までに聞いたことないほどに冷たい声音だった。ボスと呼ばれる人はひっ、と悲鳴のような声をあげた。十m以上離れているのに晴人の殺気
2016年4月27日 14:11
学校から向かったのは車などの修理店。と言っても営業はしていない。賢也の親戚の店で、使わなくなったということで使わせてもらっている。主にバイクの置き場に。車五台が置けるスペースなのでバイクは人数分三十三台が入る。今は幾つか使われているみたいで数箇所空いている。自分のバイクのバイクカバーを外し、表に出す。そのとき着信が来た。貴史からだった。「双葉ちゃんの居場所がわかったぞ。うちのもんが誘拐現場
2016年4月20日 12:37
双葉と出会って一週間経った頃、晴人のもとに電話がかかってきた。電話の差出人は富津円。「もしもし」『ニュース見た?』もの凄い迫力で聞いてくる。その声は泣いているように聞こえる。「見てないけど、どんなニュース?」『双葉ちゃんが誘拐されたの』「え」驚きのあまり言葉を失う。誘拐されたことに対してではない。誘拐されたことを円が知っていることだ。「いつ、どこで誘拐された?」『たぶんだけど、九
2016年4月13日 12:37
中学生のときの晴人は荒れていた。荒ぶっていた。ハチャメチャで滅茶苦茶だった。野蛮で横暴で非道で怠惰だった。誰もが恐れ畏怖し話しかけられる人はごく一部だった。ごく一部とは後に夜覇王のメンバーとなる者。高校生の晴人のようになるのは中三になって半年の頃だった。それまでは正しく魔王であった。中学の三年間で晴人、翔、賢也、奈緒の四人で学校内で壊した物は窓ガラス十二、机八、椅子十、扉十一、トロフィーなどの記
2016年4月6日 09:50
双葉は今日、仕事がないので朝から学校に行っている。朝から双葉がいると周りの人は結構びっくりする。特に先輩が。朝から行くといつも先輩たちに話しかけられ、教室に着くのが時間ギリギリになるのが問題の種。そして今日もまた教室にギリギリで着いたため、友達の話が途中で輪に入れない。しかし今日はちょうど話が変わるところだった。「今日のニュース見た?警察署内で銃を発砲したって話」「見た見た。怖いよね」「な
2016年3月30日 12:17
晴人たちはアジトである空き家にいた。作戦は成功した。誰も捕まることなく取り返すことができた。しかしこの場は何故か重苦しい。誰も笑みを浮かべず、深刻そうな顔をしている。「まじで撃ってきたのか?」「ああ、当たってないけどね」その場にいなかった賢也の問いかけに晴人はいつものような軽さで答える。完全にスイッチが切れている。一時間前。晴人を狙った銃弾は晴人の足下近くを撃ち、晴人に当たることはなか
2016年3月23日 18:55
翔たちに留置場を任せた晴人たち四人は取調室に向かっていた。途中途中現れる警察官を何の躊躇もなく殴り飛ばし踏みつけて行くが目的の場所までの道のりが遠い。さらには取調室に着いたのはいいが、こちらが誰だかわかっているかの如く、その扉の前には八人の警察官がいた。「四人ぼっちで何する気だ?」「言わなくても分かるだろ?テメェらを倒して翔和を助ける」その言葉を口火に戦いが始まった。最初に動いたのは菜々
2016年3月17日 00:06
午後六時五十分。十分前に集合場所に着く。これより早く着くと頭としての面子が保てなくなり、これより遅いと時間通りにならなくなる。これが晴人なりの最善の時間なのだ。集合場所にはすでに全員来ており、気合い十分に見える。仲間を取り戻すのだ。気合いでなんとかなるわけではないが、気合いを入れなくては何もできない。晴人は話を止めさせ、全員が自分を見ていることを全身で感じながら言った。「これより作戦を開始
2016年3月9日 22:23
翌日。晴人は憂鬱な気分で街中を歩いていた。時刻は九時五十分。今にも雨が降りそうな曇天。晴人の髪を見て汚物を見るような蔑んだ目線を送る歩行者。楽しそうな声で話す女性集団。全てが晴人の不快係数を上げる。何が晴人の気分を害していると思う?それは昨日双葉と会って話をしてしまったこと。それは行き先が今晴人が一番行きたくないところであること。それはこれから起こるであろうことが嫌で仕方が無いこと。それでも