その光が照らすもの 7. 不良 小室晴人 3

翌日。
晴人は憂鬱な気分で街中を歩いていた。時刻は九時五十分。今にも雨が降りそうな曇天。晴人の髪を見て汚物を見るような蔑んだ目線を送る歩行者。楽しそうな声で話す女性集団。
全てが晴人の不快係数を上げる。何が晴人の気分を害していると思う?それは昨日双葉と会って話をしてしまったこと。それは行き先が今晴人が一番行きたくないところであること。それはこれから起こるであろうことが嫌で仕方が無いこと。
それでも晴人は歩いた。目的地を目指して。どんなに嫌でもそこに行くことが晴人の義務だから。

十時。晴人は目的地のとある空き家に着いた。そこはただの空き家ではない。豪邸の空き家なのだ。どのくらいの大きさかと言うと百人近くは入れるような大きさ。そこに今日は三十数人が集まっているはずだ。
晴人は意を決して玄関を開ける。不法侵入だ、って言いたい?晴人は不法侵入以上の法律違反をしている。これくらいで心が痛むような正常な心は持ち合わせていないのだ。
そのまま靴も脱がずに居間に向かう。二、三十年は放置されていそうな家だから靴は履きっぱなしだ。そこには金髪しかいなかった。それもそのはず、この空き家は不良グループ《夜覇王》のアジト。金髪族とも呼ばれ、自分たちが作った髪染めを全員使っているため、これと同じ色を作ることはほぼ不可能。そのためメンバーがわかりやすくなっている。
そして晴人は一際大きい一人用のソファに腰を掛ける。晴人は《夜覇王》の頭なのだ。
「全員揃ったわね」
晴人の隣に立つ副頭の岡部咲里が周りを見て言った。
菜々子が立ち上がり、咲里の隣に立った。
「今日皆に集まってもらった理由は話さなくてもわかるよね。翔和たちのことよ」
先日、翔和たち三人が警察に捕まった。今日の議題はこの三人を助けるかどうか、助けるならどうやって助けるかだ。
「そろそろ返してもらわないと支障が出る。最初の奴はもう一ヶ月経つぞ」
北村賢也がイライラした声で言った。
「どこにいるかわかってんだろ。乗り込むぞ」
「あんたは喧嘩したいだけでしょ」
燃え上がる寿翔に佐々木奈緒がツッコミを入れる。
「でも翔の言うことは絶対よ。取り返しに行かないと」
田中葵が静かに言う。
もうすでに取り返しに行く空気が出来上がっている。もちろん晴人だってそう思っている。
「そうと決まれば晴人の出番だな」
一昨日晴人と一緒にいた大きい方である鎌田貴史がきっぱりと言う。皆の目線が晴人に向く。
「場所はここから一番近い警察署。正面から入り留置場に向かう。そこに居なければ取調室」
そこで一旦言葉を切る。
「まず四人一組で動いてもらう。そうすれば八組できる。それを場所毎に振り分ける」
晴人の作戦は逃げ道を確保するため最短の道に一組ずつ配置する。そうすることで相手の数も分散できる。
全員に作戦を伝え、最後に晴人がいつ行うかを言った。
「決行日は明日の夜七時。場所は警察署に一番近いコンビニ。それまでは自由とする」

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