その光が照らすもの 8.夜覇王 1

午後六時五十分。
十分前に集合場所に着く。これより早く着くと頭としての面子が保てなくなり、これより遅いと時間通りにならなくなる。これが晴人なりの最善の時間なのだ。
集合場所にはすでに全員来ており、気合い十分に見える。仲間を取り戻すのだ。気合いでなんとかなるわけではないが、気合いを入れなくては何もできない。
晴人は話を止めさせ、全員が自分を見ていることを全身で感じながら言った。
「これより作戦を開始する。目標は仲間の奪還。しかしここにいる全員が返ってこないとこの戦いの意味がなくなってしまう。わかっていると思うが。先頭は俺と咲里が立つ。後は作戦通りに行うこと。わかったら」
晴人は一旦言葉を切り、叫ぶ。
「野郎ども……夜は俺たちものだ。戦争だー」
おおー、という雄叫びをあげ、そのままの勢いで警察署に雪崩込む。
入口に立つ二人の警察官はなすすべ無く外にほおり出される。入口に四人残して他は建物の中に入って行く。
警察も黙ってはいない。こちらが素手であることを知って拳銃は出さないが警棒を構える。
しかしそんなものは晴人たちにはあってもないようなものだ。当たったら痛いが当たらなければ問題ない。それが晴人たちの口癖だ。
晴人たちは警察官を蹴散らしながら着々と歩みを進める。そのたびに人数は減っていくが。
何の困難もなく、留置場に着いた。
「智彦、修平。お前たちは無事か」
「ああ。だが翔和はいない」
「たぶん取り調べしているはずさ」
「そうか……」
ガコン、と音を立てながら正面の扉が開く。そこから出てきたのは四人の警察官だった。
「ようやく来たな、夜覇王。お前らの欲しい物はこれだろ」
そう言って先頭に立つ警察官が出したのは幾つもの鍵がついているキーホルダー。捕まった二人を出すにはこれを奪わなくてはならない。
「ハッ、まさかそっちから出向いてくれるとはな」
翔が一歩前に出る。
「晴人、咲里、菜々子、貴史。お前たちは取調室に行け。ここは俺たちがやる」
賢也、奈緒、葵が翔の後ろに立つ。
「頼んだ」
晴人たち四人は入ってきた扉から取調室に向かった。
それを見届けた翔は牙を剥き出しにして吠えるよえに言った。
「最初からぶっぱなしていくぜ」
翔は鍵を持っている警察官に向かって走っていく。
「行かせるかよ」
「あんたの相手は私よ」
翔の邪魔をしようとした警察官に葵が割って入るがまた違う警察官が翔を止めようとする。
「貴方の相手はあ・た・し」
奈緒がその警察官を抑えるとまた別の警察官が翔の前に立つ。
「今日は翔に譲ってやる」
賢也は警察官の顔面めがけて拳を突き出す。ドスッとバキッという音が同時に鳴り、その警察官は壁まで吹き飛び、背中を壁に強打。手足が伸びきって動かなくてなる。
翔は鍵を持った警察官の前まで行くと一瞬で勢いを止め、しゃがみ、手を床につけて背面になり、右足の踵で顎を狙う。だが寸でのところで躱された。
翔は足が床につくとすぐに立ち上がり、振り向きざまで左裏拳で鳩尾を殴る。さらにくの字になった相手の尻めがけて左回し蹴りを決める。
相手は顔から床に倒れ込み、翔は踏みつけておいて鍵を奪った。そのときには奈緒も葵も相手を倒していた。
鍵を開け二人を開放する。六人は出口に向かい走って行った。

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