映画『孤狼の血 LEVEL2』感想 鈴木亮平の独壇場、役所広司の不在による存在感
『仁義なき戦い』の支配から脱し始めているように思えました。映画『孤狼の血 LEVEL2』感想です。
尾谷組と五十子会の抗争から3年。亡き大上刑事のやり方を引き継いだ日岡秀一（松坂桃李）は、チンピラの近田幸太（村上虹郎）をスパイに使いながら、広島ヤクザのパワーバランスを操り、大きな抗争もなく収めていた。
そんな中、五十会の組員、上林成浩（鈴木亮平）が出所する。上林は、出所したその足で、自分を痛めつけた刑務官の妹である神原千晶（筧美和子）を惨殺。弱体化した五十子会や、上位組織に当たる広島仁正会の幹部にも牙を向け、強引に上林組を立ち上げる。
神原千晶殺害事件の応援捜査に広島県警本部へ派遣された日岡は、定年間近の瀬島孝之（中村梅雀）とコンビで捜査を開始、出所した上林が犯人と睨む。日岡は近田をスパイとして組に潜入させ、上林を挙げるための情報を探らせるが、上林の異常な暴走は予想外の事態に発展していく…という物語。
柚木裕子の小説を原作として、白石和彌が監督した映画『孤狼の血』の続編作品。小説原作といっても、それは1作目の話で、今作は原作にはない完全オリジナルストーリーだそうです。
白石和彌監督作品は結構好きで、『凶悪』『ひとよ』なんかはかなり好きな作品です。今作のシリーズ1作目は、役所広司演じる大上を中心にして、新旧織り交ぜた豪華キャストによる、かなり味付けの濃い演技が繰り広げられる作品でした。その目的は、観たらわかる通り名作『仁義なき戦い』の再現を試みているんですよね。ただ、原作のサスペンスとして複雑かつ緻密であろうとする物語、各役者の力量の差などもあり、『仁義なき戦い』の異常なエネルギーには遠く及んでいないというのが自分の評価でした。
そのうえで2作目を観てきたわけですけど、方々で絶賛されている通り、上林役の鈴木亮平の演技が、この作品をほぼ支配してしまっているんですよね。物語上でもそうですが、もはや誰一人として太刀打ち出来ていない状態でした。
この上林というキャラを、『仁義なき戦い 広島死闘篇』に登場した千葉真一演じる大友勝利と重ねる人も多いようですね。ルールぶち壊しの暴走キャラという位置ではそうかもしれませんが、上林はもっと猟奇的である意味ではヤクザっぽくない部分も大きいんですよね。
大友は周囲の思惑関係なしに暴力を用いていても、あくまで目的はシマをぶん獲って金を得ることだし、自分の身に危険が迫る時には、慌てふためいて無様に逃げる場面もありました（『仁義なき戦い』のこういうヤクザを矮小化する描き方、ホントに素晴らしいと思うんですよね）。
それに反して、上林は打算もクソも全くなしに、破滅願望で動いているようにも思えます。強いて言うなら『ブラック・レイン』の松田優作が演じた悪役に近いものを感じました。
上林という人物の暴走により、ヤクザや警察の思惑が将棋盤ごと引っくり返されていくわけですが、結果として『仁義なき戦い』オマージュの空気も吹っ飛ばしているようにも感じました。『仁義なき戦い』でも暴走するヤクザは登場しますが、それはあくまでヤクザという範囲内での暴走で、その暴走すら計算内でコントロールするヤクザも居るという描き方なんですよね。今作『LEVEL2』では、最凶ヤクザの上林が、ヤクザルールそのものすらも破壊していく物語になっています。
それに対するのが主人公の日岡になるわけですけど、前作の役所広司演じる大上刑事ことガミさんよりも、松坂桃李演じる日岡では、いかにも力量不足というのがはっきりとわかるようになっています。これを批判として見ている人も多いみたいですが、自分としては、これは明らかに脚本上の狙い通りだと思うんですよね。
この作品は、ガミさんの不在を強調するための物語であり、日岡が自分とガミさんの差を思い知らされる物語なんですよ。だからあのラストシーンで日岡は狼を目撃することになるんですよね。松坂桃李さんの不良刑事にしては迫力不足な雰囲気は、役者の力量不足ではないと思います。
他の役者さんも豪華キャストではあるんですけど、前作でもそうでしたが、ハマっている人とハマっていない人の差が大きく出ているのは否めませんでした。
近田（チンタ）役の村上虹郎さんなんかは、そのものズバリな雰囲気ですよね。チンタが上林と同じ韓国人というバックグラウンドを持っているのも良い対比だったと思います。前作から続いて登場した新聞記者高坂を演じた中村獅童さん、県警本部の管理官嵯峨役の滝藤賢一さんなんかも最高の演技でした。
チンタの姉である真緒を演じた西野七瀬さんは、頑張ってはいるんですけれども、弟妹を育てている苦労の重み、ヤクザと渡り合ってスナック経営をしている肝の太さがあまり表現しきれていないんですよね。まだ殺される役の方が合っていたようにも思えます（そういう意味だと、筧美和子さんの冒頭の殺られっぷりが見事なんですよね）。
尾谷組若頭の橘を演じた斎藤工さんも、スマートな演技過ぎてあまりインパクトなかったですね。好きな役者さんではあるんですけど、適材適所にはなっていなかったようにも思えました。
今作は『仁義なき戦い』を模した前作のような群像劇ではなく、上林が掻っさらっていく形になってしまったので、脇役たちのエネルギーが発揮されにくかったというのはあるのかもしれません。
さらなる続編も決定されたそうですが、最初から作る気マンマンの終わらせ方ですよね（もちろん大ヒットの実績があるから出来ることですが）。
原作の2作目にあたる『凶犬の眼』のあらすじを見ると、今作の終わりと繋がるようになっているので、『LVELE2』は原作の1作目と2作目を繋ぐ物語だったというのがわかります。
原作もさらに『暴虎の牙』と3作目まであるので、しばらくは長編シリーズとして観ることが出来そうですね。
『仁義なき戦い』オマージュとして続けるのなら、死んだ役の俳優が、別の役として登場するなんてのもアリなんじゃないでしょうか。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか？