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映画『CLOSE/クロース』感想 多くの人の記憶を揺さぶる悲劇【ネタバレあり】

 『怪物』と似て非なる作品。シンプルな物語なので、ネタバレ前提とさせていただきます。映画『CLOSE/クロース』感想です。

 13歳になるレオ(エデン・ダンブリン)とレミ(グスタフ・ドゥ・ワエル)。幼馴染として育った2人は、何をするにもいつも一緒で、親友以上の兄弟のような関係だった。同じ中学校に入学した2人は、いつものようにぴったりとくっついていることから、付き合っているのかと聞かれる。親友だから当然だと否定するレオだが、からかわれるようになり、レミと次第に距離を置くようになる。毎朝一緒に登校していた2人だが、ある朝、レオはレミを置いて先に登校してしまい、2人は大喧嘩となる。開き始めた2人の距離は、やがて大きな悲劇へと向かい始めていた…という物語。

 『Girl/ガール』で長編デビューしたルーカス・ドン監督の2作目となる映画作品。カンヌ映画祭で絶賛されたという前評判と共に、同じくカンヌで話題となった『怪物』と、かなり近い位置にある内容という噂を聞いて観てまいりました。
 
 確かに、思春期の少年2人の関係性を描いたという点では、同じテーマにも思えるのですが、似ているからこそ、決定的に違う部分も際立つものに思えます。『怪物』はとても複雑な脚本構成で描かれるドラマ性がありましたが、今作に関しては、脚本部分は至ってシンプルなものになっており、ドラマ性よりもそれを彩る映像美を表現として鑑賞するものになっています。
 そして、『怪物』はかなりはっきりと「同性愛」を意識させる描写でしたが、この作品での少年2人の関係性は、そういう解釈も出来るという程度で、必ずしもそうではないように描いていると思います。そのため、多くの人が持っているであろう幼い頃の感情を揺さぶられるという、より普遍的なものになっているように思えました。
 
 レオの立場も、レミの立場も、多くの人が両方経験しているのではないでしょうか。レミを悲劇へ導くことになった孤独感は、性的なものであるかどうかは関係なく、マイノリティであると感じた時に生まれるものであり、それは誰の心にも発生し得るものだと思います。
 『怪物』は当事者よりも、外側の人々に向けて作られている物語に思えましたが、今作は観ている全ての人の内面へ入り込むような物語になっていると言えるかもしれません。
 
 ただ、ドラマ性としてはあまりにシンプル過ぎるようにも感じられました。ドラマ性は少なく、レオの家業である畑の風景、画の美しさがそれを補う作りなんですけど、物語が哀しさの一辺倒に感じられてしまい、美しさが印象に残りにくいように思えました。
 レミの心情についても、かなり徹底して「描かない」「説明しない」ということに徹底しています。これは「自死」というものを扱っているため、そのリアルさを強調させる目的があるのかもしれません。確かに遺された人々は、どういう気持ちでその選択をしたのか、答えのない問いを考え続けることになるから、それを描く演出のように思えます。
 ただ、それだとレオがレミを追い詰めてしまったという単純な図式がずっと続いてしまうので、ひたすらに辛く哀しい時間になってしまい、画面の美しさと釣り合わないように思えてしまいました。レミの母親であるソフィ(エミリー・ドゥケンヌ)とのクライマックスが、それを補う救いと赦しになってはいますが、ラストの現実的な結末でそれも打ち消されてしまいます(あのラストは凄くリアリスティックで好きですが)。
 
 主演2人の少年は、どちらも演技は初だそうですが、とてつもない演技力ですね。これを最初から引き出すのはルーカス・ドン監督の手腕なのでしょうか。作品の世界観もそうですが、ルックス的にも萩尾望都の漫画作品をそのまま再現したもののように思えます。
 
 『怪物』は脚本が複雑過ぎた作品ではありましたが、こちらはシンプル過ぎたように感じられました。決定的に違うけれども、同じところから生まれた双生児のような2作品であるから、同じ時期に観て対比する事が出来たのは幸運だったかもしれません。


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