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試作ではなく、状況を可視化するためのプロトタイピングの可能性

法政大学大学院メディア環境設計研究所では3月6日に、研究会「体験をどのように設計するのか、図書館と新規事業のアイデアWSから考える」を開催しました。高知県佐川町に建設される図書館を中心とした新文化拠点の情報環境設計と、移動体験の新サービスのアイデア創出という2つの報告から、メディア体験の設計を考えました。

発表①「 佐川町新文化拠点から考える情報環境設計」リ・パブリック白井瞭&ishibashi nagara architects石橋慶久・長柄芳紀

高知県佐川町の新文化拠点は、図書館機能に加えて、NPO活動やイベントなど地域のリソースとした情報ネットワークを構築する役割を求められており、活動のあいだをつなぐプラットフォームとなるような提案をしている。
これからの図書館の役割のひとつは、住民の主体的で多様な活動を育むことだと考えているが、主体的な活動は自然発生的に生まれてくるわけではない。
思いを活動につなげるための情報環境設計として3つの概念を導入している。活動がしやすい場と機会としての「スタジオ」、新たな活動へと導く人としての「ガイド」、人と情報をつなげる術としての「ミドルメディア」。ミドルメディアは、情報空間と実空間をつなぐ参加型のメディアという意味で、具体的にはコミュニティラジオ、研究したい分野の本を集めて持ち運べるモバイル本棚を考えている。
可動家具などを使うことで、図書館の静的、交流の静的のモードチェンジができる工夫をしている。文教の街、多様な植生、新しいことを受け入れるおおらかさが「佐川らしさ」であると考え、屋根などでそれを表現している。

質疑とコメント
Q,「図書館は、賑わいや役に立つという期待が高まっているが。それに直接的に応えるのではなく隙間が必要ではないか」
A,「賑わいは目標にするものではなく結果。色々な人によるアジールになることが重要」
A,「ひとりで来て、こっそりソファで本を読むのも大事。隠れることができるなど場所の選択性を書架レイアウトで考えている。ひとりで来たけど、あっちで面白そうなイベントをやっているなという出会いを作りたい」

発表② 「移動体験のアイデア創出手法について」ゆめみ野々山正章

MaaS(Mobility as a Service)が注目されているが、カーメーカーであれば車そのものを考えてしまい、スマートフォンとの連携などが十分に考慮されてない現状がある。スマートフォンを持った人は場所の変化によらず情報行動の連続性を保ちながら移動している。そのため、新しいサービスのアイデアは状況論的に捉えて設計を行う必要がある。
例えば、電車や駅のような公共的な空間であっても、家族や友達からLINEがスマートフォンにきて、私的な情報が流れ込んでくるという連続性がある。

会議室で行うような現状のワークショップと状況論的なワークショップの二種類を実施して比較してみた。スマートフォンを使いながら移動するワークショップでは、出てきたアイデアが連続性を持つだけでなく、人との相互行為の中に感情の動きを見出しているものがあった。

質疑とコメント
Q,「アイデアを考える際に、スマートフォンを持つ人の、複数の情報・メディアレイヤーが可視化できないという問題があるのではないか」
A,「UXリサーチャーも目に見えるところから考えるので、捉えにくくなっている」

プロトタイピングで環境をあぶりだす

発表の後の全体討議では、スマートフォンを中心とした複雑な情報・メディア環境をどのように可視化するのか、アイデアの有効性をどのように確認するのか、が議論となった。

「建築の場合は、パースを作ったり、模型をつくってみる。これは環境を可視化しようとしてきた足跡とも捉えられる。それを一緒に見ながら、ナラティブを共有することで状況を現前させることができるのでは」
「まず、プロトタイピングをして、そこから環境をあぶりだす。それを繰り返してナラティブを積み重ねる。プロトタイピングが一回では難しい。デザイン思考がステップ論と捉えられ、プロトタイピングが確認のようになっているのが問題」
「建築でも、映像制作でも、きれいに作り上げることを重視し過ぎている。ラフにつくる、活動しながらつくる、というようにプロセスを変えたい」

利用者のクリエイティビティをどう生み出すか

「使う人がいないと設計しているものが実現しない。利用者側のクリエイティビティをどう考えるか」
「違う使い方をされているほうが面白い。こうじゃなきゃ駄目とは言うのではなく、おおらかさがあるといい」
「設計の余白は、利用者が余白を感じて白けてしまうことがある。ともに作る共犯者を増やすことが必要」
「社会の中で果たしてきた役割、機能を考えることで、街の人達が何を望んでいるのか、浮かび上がる」
「プレゼンにらしさという言葉があったが、図書館も駅もらしさを感じるためにはその地域の歴史や特色を学ぶローカルスタディが必要になる」

研究所について:5G・IoT時代に対応する人間を中心としたメディア環境の設計を考える法政大学メディア環境設計研究所。 2020年6月に書籍『アフターソーシャルメディア -多すぎる情報といかに付き合うか』を出版するなど、ソーシャルメディア時代における人々の情報接触と設計について調査・研究を行っています。



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