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名刺を手放す

名刺交換の機会が減った。昨今のオンライン化事情の影響は少なからずある。
オンラインで電子名刺のようなものを用意するひとも見かけはするのだが、それをうまく保存し、ましてや物理的な名刺のように整理しようだなんて気はなかなか起きない。

仕事柄、開発コンサルタントや国際協力関係では人に会う機会も多く、出張先での調査ともなれば100枚は使ってしまうのではないかしらというくらいに名刺をばらまくこともあった。

ひとつの案件や出張でそれだけの名刺を渡すのだから、もらう方も半端ない枚数だ。

だから、昔からわたしの名刺入れは慢性的に恐ろしいパンク状態が当たり前だった。

この9月、しばらくお休みしていた会社に行き、自分のサイドデスクの抽斗を片づけた。
もちろん、恐ろしい数のファイルとぎっしり分厚く詰め込まれた名刺が山ほど出てきた。

8年弱勤めたこの会社だけでなく、いくつか点々と渡り歩いていた契約の仕事を通じてもらった名刺まで、なんとぜんぶ後生大事にとってあるではないか。

中には、十数年以上前の古いものも多く、正直言って8割方は顔も思い出せない相手のものだ。

昔は、不安だったのだろうと思う。

仕事のキャリアを積むために、いろんなネットワークが大切だったのだ。
とくに、所属というものがなかったから、ネットワークこそがわたしのキャリアをつないでくれる重要なカギを握っていたから。

だから、契約の仕事が終わっても名刺は大切に保管していたのだ。
他人様のお名前も書いてあるものだし無下に扱うわけにもいかないし。

そういえば、最初に名刺を作ったのはいつだったろう。
恐らく大学生のころだったのではないか。

自分のやりたいこと、専門性を知ってもらうために、名刺というものはわたしにとって欠かせないツールだったのだ。

時が流れ、時代が変わり、ネットワークというものはどんどんオンライン化されていった。

わたし自身も、それなりだが仕事の経験を積むことができて、昔ほどの不安もなくなった。
それと同時に、今まで完全なるプライベートだったネットでの発信が、わたしのキャリアアイデンティティと一致してきた。

この先また国際協力の仕事はすることになると思うが、そのとき必要となるひととは、きっとSNSや何らかの手段を通じてつながることができるだろう。

そう思って、先月、オフィスの片づけをするときに、過去十数年にわたる膨大な名刺ファイルをすべて廃棄した。

過去の重荷と決別した、実に爽快な瞬間であった。

エッセイ100本プロジェクト(2023年9月start)
【 7/100本】

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