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#029『死は空気をつかむようなもの』|ベッシー・ヘッドの言葉|Novel

He could not go on thinking of the heap of bones that lay inside the hut, because death was like trying to clutch the air, and you had to let it be and slowly let it pass aside, without fuss and indignity. Instead, you had to concentrate the mind on all that was still alive and treat it as the most precious treasure you had ever been given.

When Rain Clouds Gather 1968

ハットのなかの積み重なった骨のことをこれ以上考えられなかった。死は空気をつかむようなもので、騒がず蔑ろにもせず、ゆっくりと過去へ流していくものだからだ。その代り、まだ生きている者に心を注ぎ、生きていることこそ、我々に与えられたもっとも尊い宝物として扱わなくてはならない。

再び最初に出版された長編小説"When Rain Clouds Gather"(1968)『雨雲のあつまるとき』のシーン。恐るべき干ばつに放牧場の家畜は死に絶え、ハゲワシが死肉のごちそうにあずかっている。
そんな中で、村には悲劇が起こってしまう。南アフリカからアパルトヘイトを逃れ亡命してきた元ジャーナリストの青年マカヤは、この悲劇に真っ向から対面し、重荷を背負おうとする。その中で、彼自身が南アフリカで経験してきた恐ろしい死、憎しみ、苦しみと、干ばつで荒れ果てた大地でたったひとり向き合う。あまりにも広大で何もない土地の孤独は圧倒的で、ひとはやがて考えることをやめてしまうのだと知る。

この作品のここから先のシーンは、クライマックスに向かって一気に展開していく。それぞれの登場人物の内面が変化していく過程があまりにも秀逸で、筆者がこれをまだ30歳になる前に書いたことに改めて驚く。

マカヤの内面の独白は、ベッシー・ヘッド自身の独白でもある。

そして、ここにもベッシー・ヘッド作品にキーワードとして多く出てくる「宝物」ということばがある。自分にとっての「宝物」とは?ということを考えさせられる。

作家ベッシー・ヘッドについてはこちらのマガジンをご参照

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