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小説を通じてみる事実


小説は嘘でもあり、事実でもある。
数々の事実が作者の中で再編集され、新しい世界が作り出されている。

ニュース/報道だとみなかったり、触れないような分野を知るきっかけになったり、自分の内なる感情に気づかせたりしてくれる。

ニュース/報道だと登場人物になりえないような、ちょっとダサかったり、失敗するひともみんな平等に現れる。

嘘なのに本当よりも事実のようなにように感じさせ、考えさせてくれる。

勿論、報道にも様々な形式があるし、多数の情報の要点を比重を変えずに連続的に使えるという手法は、短時間で網羅的に情報を会得するために有用である。

ただ、報道だけが事実を伝えるものではなく、小説にも事実を伝えるという要素があるということ。時には報道以上に、事実を伝える上で有用な場合があると思う。

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私は有川浩さんの小説が好きなのだが、それは彼女の文体や表現だけではなく、念密な取材に基づいた世界観があるからだと感じている。

「ニーズがないじゃん、施設育ちでかわいそうじゃない子供なんて」

これは、"明日の子どもたち"という、児童養護移設をテーマにした小説の一節である。私は、この文章を読んだ時に、無意識のうちに可哀想な施設のこと決めつけ、それを求めてしまっていることを恥ずかしながら痛感してしまった。

詳細な説明は割愛するが、本書では"かわいそうな施設の子供"というような単なる感動ものではなく、事実を元に日々の暮らしの中で出会う進学やお金などの現実的な問題や職員からみる子供たちへの葛藤などが描かれており、普段のニュースやドキュメンタリーでは触れる機会の少ない世界観を気づかせてくれた一冊である。
あとがきにある本の作成秘話もとても良いので、本書を手に取られる際は最後までぜひ読んでいただきたい。

有川さんの本だけではない。普段小説を読む中で出てくる、歴史・音楽・国・社会問題は小説に占める割合は違うにせよ、いつも新しい気づきをくれる。


小説は娯楽であり、実用書ほどの価値はない。と思っている方にこそ、ぜひ小説を通じた知識の広がりを感じていただきたい。
小説は嘘であり、事実なのである。


<参考図書>

ぜひ本書を読んでいただきたいが...
偶然見つけたこの感想文、素敵だったので読むのはちょっとという方も見ていただけるとイメージつくかも知れません。



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