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【2023】#Favorites

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aeuが読んだなかでお気に入りの記事。 面白いな、胸に響くな、好きだなと思った記事。 基準は、まったくない。 このマガジンに入っていないけど大好きな記事もたくさんある。ここに居る…
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#ショートショート

凍える星《#シロクマ文芸部》

凍った星をグラスに。 さらに三奈ちゃんは、極細ポッキー1袋25本を氷の入ったグラスに差す。 三奈ちゃんの中学生のお姉ちゃんが昭和レトロにハマっているらしく、これも「ポッキーオンザロック」という昭和に流行った食べ方らしい。私にはよく分からないけれど。 「チョコが溶けなくていいでしょ」 三奈ちゃんがみんなに言う。 「星型の氷、オシャレだね」 一太くんに褒められた三奈ちゃんは、うふふと頬をほんのり染めた。 「細い!」と文句言いながらもポッキーに手を伸ばした吾郎ちゃんを、ニコちゃんが

通行人A 《#シロクマ文芸部》

「ただ歩くだけなのに、いつまで待たせるんだ」 俺はメガネを拭きながら「計画性がなさすぎるな、芸能界ってところは」と文句を続けた。ハンカチを折り目どおりに畳み直し、スラックスのポケットに仕舞うために丸椅子から立ち上がって遠方を眺める。 ロケバスの中の小百合ちゃんは、まだ出てこない。 「どこも晴れの予報でしたから仕方ありませんよ。大好きな女優さんとの映画共演が待ち遠しいですね。ふふ」 妻の呑気な声はいつも俺をイライラさせる。 共演だなんて。俺たちは単なるエキストラじゃないか

ネオンテトラのかのじょ

「細谷くんは長い髪の毛が好きなんだって。本当かな....」 彼女は机上に座って、楽譜を見つめながら独り言のようにつぶやく。 「ね、せんせ。先生はお正月はおもち食べたの?私は自分で焼いて礒部焼きで食べたよ。親が雑煮が好きじゃないから。でもおもちはなんだっておいしいね。」 僕が放課後、音楽室で仕事をしていると、半年前くらいから佐伯さんはいつの間にかよく顔を出すようになった。 「わ!」 背中を指でつつかれて僕は驚く。 あたりを見渡すが誰もいない。 机の陰からばっと彼女

【ショートショート】夏のおねえさん(春ピリカ2023応募)

風鈴が鳴る。 近くで霊柩車が通った。 「霊柩車を見たら親指は隠すんだよ。大事な人の死に目に会えなくなるんだって」 おねえさんは私の親指を両手で包んで言った。 私は小学4年生。霊柩車は何回か見てきたけれど、親指はむき出しだった。 それどころか手を振ったりしていたと思う。 おねえさんは、私の従姉妹で大学生だ。 夏休みに私の家に遊びに来てくれる。 おねえさんは優しくて、毎年いろんなことを教えてくれる。 私が小1のときはこんなことを教えてくれた。 「鰻と梅干しを一緒に食べると、

一生の仕事〜春ピリカ応募〜

川路遼は辞表を提出した。 40歳という働き盛りの遼に対して上司は慰留したがほどなく受理された。窓の外には雲雀が高く舞っている。 話は数ヶ月前に遡る。 近くの商店街を散歩していた時だった。骨董店で、一つの壺に心を奪われた。高さ30センチほどで、草花が描かれている。派手さはなく、シンプル。むしろボコボコとして不恰好でさえある。だが、美しい。 遼は、この壺に季節の花々を活けることができればどんなに美しいだろうかと思った。そして、こんなものが自分にも作れるとしたら。 「その壺に

『とまった先に』:春ピリカ1200文字

紫がかった空を真っすぐにさすその指を 放っておくことが出来なかった。 無言の助けを求めているようで。 子供達のはしゃぐ声の響く公園に、その青年はいつもいた。ただぼっと遠くを見つめる彼は、微動だにせずに隅の木陰に座る。走り回る子供達は誰一人として、彼の事を気に留めてはいないのだろう、それほどに彼の周りだけの時間が止まっているように思えた。毎日毎日同じ場所に座り続けている彼は、時にそっと地面に咲く花に触れたり、ふと揺れる木の葉に目を向ける。 いつから彼がこの公園に来ているのかも

こゆびの花冠|#春ピリカ応募

「こゆび!」 レモンイエローのヒールをリズミカルに鳴らして駆けてくる友人に眉をひそめる。 「もう! やめてよ、その呼び方」 「ごめんごめん、こゆみ」  母が昔から私を『こゆびちゃん』と呼ぶせいだ。生まれた時から小柄な私に本気で『こゆび』と名付けようとした母を止めてくれた父には感謝しかない。小さくて自由に動かない指。私はその呼び名が嫌いだ。  コーヒーを飲む私の前でクリームソーダをつついているのは小学校からの幼馴染、千波。大学進学で街を離れた私が就職で戻ってきたため、久しぶ