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ヘミングウェイ 「老人と海」 書評

ヘミングウェイ著 福田恆存訳の
「老人と海」を読みました。

ヘミングウェイの作品は初めて読みました。
これまた非常に面白い作品でした。

簡単にいえば、老漁師が巨大なカジキマグロに立ち向かう小説です。
複雑な人間関係もなく、ひたすら老人の独白とカジキとの激戦の状況が綴られています。

まさしくハードボイルドな作品と言えるでしょう。

男のロマンを感じましたねえ。読みやすいですし、おすすめです。

※ネタバレ

あらすじ

キューバの老漁師であるサンチャゴは、不漁が84日間も続いていた。

老人はマノーリンという一人の少年を、漁の教え子として可愛がっていた。
マノーリンも老人を唯一無二の漁師だと慕っており、二人は硬い絆で結ばれていた。

少年は老人の腕を疑うことはなかったが、両親から一緒に漁に出ることは止められていた。

ある日、老人は大物を狙いに、一人で小舟に乗り、漁に出た。

そこで、沖合で発見したマグロの大群近くで、餌を降ろしていると、これまで出会ったことのないような巨大なカジキがかかった。

下手に綱を引っ張り上げると、ちぎられる恐れがあるため、老人はカジキが海上まで上がってくるまで持久戦に持ち込んだ。

そこから3日間におよぶ死闘が始まる。

老人は満身創痍の中、海上に姿を表したカジキにモリで致命傷を与え、見事しとめる。

しとめた獲物を船にくくりつけ、街まで戻ろうとする途中で、カジキの血の匂いを嗅ぎつけたサメたちが、次々にカジキの肉を食いちぎっていく。

老人は、何度もサメを追い払おうと苦心するものの、やっと港に戻ったころにはカジキの肉はほとんど失われて、残ったのは頭と骨だけであった。

船から降りた老人は疲労のあまり、何度も倒れながらやっと自宅に辿り着き、眠りに落ちる。

夜が明けると、街では老人が仕留めた獲物の骨を漁師たちが眺めていた。

老人と再会したマノーリンはまた二人で漁にいくことを約束した。

ーーーーーあらすじ終わりーーーーー

感想

この作品の大部分は、老人の独白や、漁の状況の描写で占められている。主要な他の登場人物は冒頭と最後の出てきたマノーリンだけである。

幾度も困難に出会い、後悔や絶望に襲われるが、自らを奮い立たせて果敢にカジキに挑みゆく。

そんな中でも、老人は海への敬意を忘れない。あくまで海に対して謙虚である。ここが他の漁師と異なる点であろう。

(略)…かれらにとって、海は闘争の相手であり、仕事場であり、あるいは敵でさえあった。しかし、老人はいつも海を女性と考えていた。それは大きな恵みを、ときには与え、ときにはお預けにするなにものかだ。

「老人と海」 新潮文庫 P.30

けれど、その人間たちにあいつを食う値打ちがあるだろうか? 
あるものか。もちろん、そんな値打ちはありゃしない。あの堂々としたふるまい、あの威厳、あいつを食う値打ちのある人間なんて、ひとりだっているものか。

「老人と海」 新潮文庫 P.85

漁師として生まれついた以上、なんとしてもあのカジキを殺さなけれならない。普通の年寄りの漁師とは違うことを証ししなければならない。

ひたすら淡々と孤独に、長年の経験と腕っぷしを武器に、カジキに挑み続ける老人。

釣り上げたカジキを食いちぎられている間も、
「そりゃ、人間は殺されるかもしれない、けれど負けはしないんだぞ」
と言った。

与えられた仕事、使命を成し遂げたという誇りは、それがふいになったとしても、決して失われることはない。

「漁師として生まれ、漁師として魚を殺し、それが無駄になってしまっただけだ」というような意志を感じた。まあ強がりに見えないこともないが。

漁の間に何度も、少年のマノーリンを思い浮かべて、
「あの子がいてくれたらなあ」
と独白しており、マノーリンとの友情の厚さも窺い知れる。

おそらく、マノーリンも老人が無事に港に戻ってくると信じていただろう。
マノーリンは老人が行方不明の状態から、自宅に帰った直後にも、日課であった老人宅への訪問を怠らなかったからである。

最後の方で、老人が少年に向かって
「おれは夜中に変なものを吐いた。胸のどこかが破れたような気がしたよ」
と述べていたため、おそらく肺か心臓を患っており、長くはないだろう。

漁であんな酷い目にあった老人だが、ふたたび漁に出向こうとする姿が容易に思い浮かぶ。

蛇足だが、冒頭の少年との会話の中で、老人がボケているのではないかという場面があったのだが、二人特有のやりとりなのか、ちょっとこれはよくわからなかった。

全体を通じて、文学的な考察があまりできなかった点は少し悔しいが、また読んでみたいと思わせる作品であった。

訳者の福田恆存氏の解説が非常に読み応えがあるので、その点もおすすめである。

ーーーーー感想終わりーーーーー



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