AI活用で保険料減少の先、コスト減で良いのだろうか。

 引用した記事の内容としては、損保ジャパンがAIを活用することで保険料の算出や引受などを無人化(AIによる代替)によって、コストを抑えるというもの。損保ジャパンだけでなく、他の損保大手も同様のAI活用によるコスト減に向けて、積極的に投資をしている引用である。
 日本企業および当該記事においても、DXやIT、AIをキーワードにコスト低減が頻繁に叫ばれる傾向にあるように思う。そして、そのコスト減は価格に転嫁され、最終的に消費者の支払額減少に還元される仕組みである。これが一般的な考え方であろう。
 しかし、本当にそれで良いのだろうか。最終支払額の減少は支払い意欲(W TP:Willing to Pay)の減少にも繋がりかねない。つまり、実質的に価値が下がるのだ。だからこそ、これからのDX推進の指針の一つには、付加価値の創出をテーマの一つに付け加える必要があるように思う。

保険料の算出等は基本的に「作業」であるということ

 引用記事によれは、地図情報や企業情報などにより、例えば火災保険は、保険料が算出されるという。つまり、既出情報を整理し、機械的な作業によって算出が可能であることが分かる。そうなれば、確かに、人である必要はない。数学などの専門的知識を雇うよりもAIを導入した方がはるかに安い。
 特に、今回の記事で扱われた内容によれば、無人化がなされるということから、従来の担当者は不要となる。完全にAIに仕事を代替されたカタチとなる。
 ここで考えたいのは、この従来の担当者の処遇だ。配置転換で経験資産の活かせない部署へと異動となるのか、新規事業系の部署・組織を立ち上げ経験資産を活かしてAIに付加価値を追い求めるのか。残念ながら一般的には前者だろう。何年もの間、指示通りに作業をこなし高給を取ってきたのにも関わらず、いまさら、指示なく自らが考えリスクを負い新しいものを生み出す、というマインドセットになるとは考えにくい。会社としても、新規事業に向いた人材を雇う方が都合が良いだろう。

DXによる付加価値の創出は、未だ発展段階

 DXと聞くと、何か新しいことができそうな気がするが、実際に何か新しいことを実践できている企業は少ない印象だ。特に新聞でも、コスト削減や価格低下、という文字が目立つ。「DX=省人力化」、という印象が強い。しかし、海外企業を視ると、フィンテックなど、新しいことへの挑戦に積極的な姿勢が見受けられる。事実、日本の大企業は海外の会社を買収することで、DX活用の糸口を見つけようとしているのではないか。そういう意味では確かに、既存組織を解体(解雇や配置転換)して、新しく外部から機能として組織を持ってくるのは効率が良い。
 このように、多くの場合、付加価値の創出へ企業が向かっているとは考えにくい。 しかも、既存の大企業はデジタル文化の浸透したオペレーションへの転換(DX)は実際には難しい。だからこそ、新興企業を中心に新しいことに挑戦する風土は強く、また、自前主義でもないので、様々な付加価値が創出可能だ。
 例えば、以下の2つを比べて欲しい。物流に関するDX支援サービス、である。前者は様々な企業が機能単位で協業するエコシステム。後者は日本を代表する2社がはじめたサービス。


まとめ

 このように、多くの場合、DXは付加価値の創出による高単価への転換の文脈で語られることは少なく、省人力化によるコスト低減および低価格化、の文脈で語られることが多い。しかしながら、長期で視ると難しい。付加価値を創出する企業(群)も当然、コスト低減は行われているはずだ。その上で、付加価値を創出している。
 今回の例で言えば、無人化された人材のその先である。無人化された社員は、介護事業に介護事業へ配置転換か解雇(希望退職)の見方が一般的だ。そうでなければ、契約等に係る直接的な費用は低減されても、人件費は維持され、それほどの費用圧縮は期待できないからだ。
 例えば、保険事業は近年ECチャネルへの進出が目覚ましい。シンプルで安い商品(消費者に分かりやすく、購入に関する心理障壁が比較的低い)がメジャーだ。これを複雑で高単価商品を代理店を通さず直販できる仕組みを、作ることができれば、大きな波が生まれるかもしれない。顧客への知識啓蒙活動はインターネットコミュニティの登場によって促進され、また様々なデータの蓄積が可能となった現代であれば可能かもしれない。


#日経COMEMO  #NIKKEI

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?