見出し画像

Make Your Happy 〜 ゲームは誰のものか

あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。

と⋯2021年を迎えたばかりですが、いきなり話は2019年の秋に遡ります。2021年元旦のこともちゃんと話の後半に書いてますので、そこまで、なんとか辛抱強くお付き合いくだされば光栄です。

2019年、ルヴァン決勝でのこと

2019年10月26日に行われた、ルヴァンカップ決勝戦「川崎フロンターレ ー コンサドーレ札幌」
この試合は後半アディショナルタイムに札幌が追いつくという劇的なドラマもあり、3−3という激戦の末にPK戦でフロンターレが優勝を飾った。

名勝負と言われたこの試合の大きな山場として語られるのが、2−2のまま延長戦に入った96分、フロンターレの谷口彰悟がチャナティップをファールで止めたシーン。カウンターでチャナティップがドリブル疾走、ペナルティエリアに入るギリギリのところで、後ろから谷口が体を入れるような形で結果的に倒してしまった。

「体を入れるように」と書いたが、実際にリアルタイムで観ていた時は、その瞬間もそしてスローを観ても、本当にうまく体を入れて止めた、谷口による素晴らしいチャージだったように見えた。ただそれを荒木主審はファールと判定して(それは荒木主審のジャッジなので仕方ないし、理解できる)谷口にまずイエローカードが出された。

しかしそこでVARジャッジが入り、このチャージはエリア外での DOGSO が適用され、谷口にはイエローではなく一発レッドカードが出されることになる。

DOGSO(ドグソ)とは
決定的な得点の機会の阻止のことを指し、Denying Obviously Goal Scoring Opportunityの頭文字をとった言葉

確かに。谷口によるチャージがファールだとするならば、この位置でこのファールがなければチャナティップはフリーで決定的なシュートを確実に打てたわけだから、DOGSOが適用されるのは仕方ないように思う。

イエローのまま流さずに主審にVARジャッジを忠告したVARチームの眼力は見事だと思うし、VARを見直した上でDOGSOを適用し谷口をレッドカードとした荒木主審の決断も、さすがプロフェッショナルレフェリーだけあって、潔く、そして毅然としたものだった。

あの一発レッドは、ルール的には正しいジャッジだった。

ただ。ただただ。ここからが今日の本題なのですが

コンサドーレ・深井の言葉

レッドカードが谷口に出された時、コンサドーレの深井が「荒木さん、せっかくいい試合なんだから、11人対11人でやりましょうよ」的なことを荒木主審に言ったらしい。

それは、Jリーグ公式があげたこの試合のドキュメント動画の中で、実際に荒木主審も深井も証言している。

ルヴァンカップの決勝戦。満員のさいたまスタジアム。地上波でも生中継されているビッグカード。
両チームが爽快に激突し白熱する稀有な名勝負の途中で起きた、VARによるリジャッジ。

そして、本来ならば相手(しかもセンターバック)が退場になり11人対10人でやれる状況になろうとしてるのに、それを「せっかくの好試合なのだから」とレッド判定をやめてもらうように相手チームの選手がレフェリーに進言をしたという、これまであまり聞いたこともない状況なんて。

ファールを受けてもいないのに演技で倒れ痛がるふりをしたり、すぐにレフェリーに大袈裟に抗議するのがもう当たり前すぎるほどに当たり前すぎて見慣れた光景になってしまっているサッカーの世界において、こんな爽やかな出来事に僕は本当に初めて遭遇した。

ゲームは誰のものか

そこで強く思うのです。あのゲームは、誰のものだったのだろうか。

もちろんあのゲームを構成する全ての人のもの、が正解なのだろうけれど、その全てよりも、そしてそれを構成する背景、文脈よりも、ルールは絶対的に杓子定規に優先されてしまうものなのだろうかと。いや、まぁそうなんですけども。

でもそれを判断するのも、人間じゃないですか。人間がやるから、サッカーは面白いわけで。こうなるとVAR不要論に話が飛ぶのだけれど、今日のところはそこには言及しないです。

確かにルールをルール通りに適用すれば、谷口はレッドカードで正解だったのかもしれない。ただ、あの谷口のチャージに悪質性を感じた人はほぼいなかっただろうし、ましてやファールかどうかも、見方次第では分かれるはず。

もちろんあれをファールとしたのは荒木主審の判断だし、悪質かどうかはDOGSOには関係ない。だから尊重されるべきだけれど、相手選手までもが「レッドじゃなくていい」「せっかくの好試合なんだから」と言ってくれたあの状況で、あそこで11人対10人にしてしまうのが本当に良かったのだろうかと、僕はこれからもたぶんずっと疑問に思い続ける。

何回も繰り返すけど、荒木主審のジャッジは正しいんです。あれで荒木主審が深井選手の言葉に心が流されて「OK、やっぱりイエロー止まりでいこう!」とジャッジしたら、きっと荒木主審にはその後に厳しい処分が下るはずなのだから。

でも、でもでも。全てにおいてルールが優先されるんでしょうか。
確かにそれが正しさなのかもしれない。

でも、何度でも書くけど

ルヴァンカップの決勝戦。満員のさいたまスタジアム。地上波でも生中継されているビッグカード。滅多に見られない名勝負。そしてまさかの相手選手までもが、レッドはやめてくれと言っている。

ゲームは、誰のものか。

2014年ブラジルW杯開幕戦

この観点で言うと、僕は今でも2014年ブラジルW杯の開幕戦「ブラジル ー クロアチア」で、後半クロアチアが1−1と追いつき、さぁ、これから良い勝負になり盛り上がる⋯となった後、ペナ内での僅かな接触をファールとし、ブラジルにPKを与えた西村主審のジャッジは絶対におかしいと思っています。上述したルヴァンよりも、強く明快にこれは思ってる(6年も経ってるのにしつこい)

当時、Twitterでそれを言ったらブラジルを応援する方から激しく批判されましたが(今でもトラウマ)

プロフェッショナルって、ただルール通りに物事を進めて遂行していくだけが使命なんだろうか。

ましてや、プロサッカーは最大級のエンターテイメントでもある。試合の勝敗だけを追うこととエンタメ性の相反については後述するけれど、あの瞬間のあのジャッジについて言えば、荒木主審があそこで深井選手の想いを汲み、意を決して「このまま11人対11人でいこう」としていたら。

プロフェッショナルレフェリーとしては処分されてひょっとしたらその職を解かれたのかもしれないけれど、サッカーファンからは、永遠に語り継がれ記憶に残る名レフェリーとなったんじゃないかなって。

もちろん、これは荒木主審への批判ではない。誤解されて炎上するのも嫌だから何度でも書くけれど、荒木主審のジャッジは正しかった。それは今でもそう思うし、他の試合のジャッジを見ても、荒木主審は日本屈指のレフェリー。

ただその一方で、あのゲームのあの瞬間、おそらく多くの人が思っていた「このままこの名勝負を堪能させてくれ」という想いに応えるのも、プロフェッショナルとしては立派な所作だったんじゃないだろうかと、つい、モヤモヤと思ってしまう自分がいるのです。

綺麗事、理想論というのは重々承知なのですが。
閉塞する社会の中、せめてエンタメでは、そしてせめてスポーツでは、理想を夢見ていたい。

ゲームは誰のものか(しつこい)

あのジャッジはこの問題提起にうってつけ、人によっては意見が二つにも三つにも分かれるであろう事象だったので、ここで言及させてもらいました。

動画を観ても、荒木主審の苦渋の決断が本当に伝わってきますよね。
勝手な意見で本当にすみません。荒木主審も人生かけてるのに。

話は逸れるけれど、谷口彰悟って本当にいい選手。たぶんJリーガーの中で一番好き。プレーはもちろん、リーダーシップもあるし、プロとしての姿勢も誠実だし、羨ましい限りのイケメンだし。代表のスタメンセンターバックでキャプテンにしてもいいくらいだと思う。俺らの誇り、俺らのキャプテンだって、多くの子どもたちも思ってくれるんじゃないかな。

2021年元旦、天皇杯決勝戦のこと

つい先日、2021年元旦に行われた天皇杯決勝戦「川崎フロンターレ ー ガンバ大阪」

今シーズン大ブレイクした三苫薫のゴールで1−0、フロンターレが勝利して天皇杯初優勝を飾り、Jリーグとの二冠を達成した。

この日の天皇杯決勝は、上述した昨年のルヴァンと同じかそれ以上に、この先二度とあるかないか、というくらい様々な背景や文脈で構成されている試合だったと思います。コロナ禍という、社会的な状況下ということも含めて。

元旦の天皇杯決勝。普段サッカーを観ない層がたくさん観ている。Jリーグ1位と2位の頂上決戦で、スペクタクルなゲームを展開し、サッカーの魅力を伝えるにはうってつけの機会。

ましてやコロナ禍の中。閉塞しかけてる人々に明るさや勇気を伝えるのは、プロとして何よりの役目なはず。

Niziuも言ってたぞ

突然話は飛びますが、Niziuのメンバーたちがことあるごとに言ってます。見ている人たちを幸せな気分にさせるのが、私たちの職業だと。10代の子たちがそう言ってます。Niziuだけでなく、乃木坂の子たちもよく言ってるよ。

アイドルでもスポーツ選手でも同じ。プロならば、観ている人を熱狂させ、何かを伝え、心を動かし、幸せな気分にさせるのがプロの仕事なんじゃないか。CDをたくさん売ったからいい歌手というわけではないし、歌がうまくてダンスを振り付け通りにうまく踊れればいい、というわけでもない。J.Y.PARKさんもそう言ってるぜ!

リマちゃんかわいい。ミイヒちゃんに毎日食料送ってあげたい。

・・・ともかく。サッカーにおいても、それは同じでしょう。

本当に、勝つことが全てなのか

プロサッカーでは、まずはエキサイティングな試合を目指すべきなのが大前提なんじゃないかと僕は思います。ましてや今回は天皇杯決勝やで、100回記念やで、そして何より、コロナ禍で暗い社会を明るくさせる役割も担えるんやで!というオマケもつく。

なのに、ガンバは前半からほぼ5バックの陣容を引き、攻めに出なかった。出られなかったのかもだけど。もちろん0−5で敗れたリーグ戦のこともあるから、宮本監督は「勝つために」あの手を打ったということでしょう。それは三苫に先制されるまで変わらず、ガンバは後ろに引きこもっていたままだった。もちろんいろんな見方はあるだろうけれど、特にこのゲームでだけは、あの戦い方はしてほしくなかったなと、個人的には思う。

そしてフロンターレの鬼木監督は、中村憲剛を最後まで出さなかった。チーム事情もあるし、僕らに見えないものもたくさんあるでしょう。だからこれ以上はもう言わないけれど

でも日本中でこの試合を観ていた人たちのおそらく95%は「憲剛を観たい⋯!」と思っていたんじゃないかな。

わかるよ!本当によくわかる。宮本監督も鬼木監督も、勝利を優先したのだからきっと正解だったんだろうと思う。僕だって監督の端くれだし、僕がもしあの立場だったら、やっぱりそうしたかもしれない。理想論だけでは抗いきれない、スポンサーも含めたいろんなシガラミだってあるのだろうし。宮本さんも鬼木さんも苦渋の決断だったはずだし、特に鬼木監督は、本当に悩んだだろうし。

でも、それはあくまでも「監督目線」「現場目線の現実目線」でわかる、というだけの話。一般視聴者やサッカービギナーには関係ないし、おそらく伝わらない。

よく、Jの選手や監督がインタビューで「勝つことが全て」とか言うじゃないですか。このセリフ、実際にこの試合後のインタビューでも聞かれた。

でもこれ僕はずっと思ってたんですけど、本当にプロは「勝つことがまず最優先される」のだろうか。本当にそれが全てなのか。そのゲームの文脈や背景は二の次、内容も二の次でとにかく勝利だけ追うのが、プロのあるべき姿なんだろか。

本当に「勝つことがすべて」なのか。プロって、本当にそれでいいのだろうか。もちろん意見は分かれるだろうけれど。

以前Twitterで知った話なのだが、ある旅行会社の人が、中学校の修学旅行を担当した時のこと。

一緒に帯同した先輩から「信じられないかもしれないけれど、この旅行が人生最後の旅行になってしまう子もいる。だから俺たちは誠心誠意、この仕事を全力でやるんだ」という話をされたと。

プロって、きっとこういうことだと思うんです。

今日初めてサッカーを観る人もいれば、ひょっとしたら今日を最後に二度とサッカーを観れなくなる人も観てる。そういう想像をしながら戦うのがプロだと思うんです。監督も含めて。

僕のこんな考えは甘々だし理想論で綺麗事すぎると怒られるかもしれないけれど、そこを超越した何かを見せるのがプロだと思うし、そうしないと、新たなサッカーファンも増えてはいかないと思う。

元旦の決勝戦、コロナ禍、中村憲剛⋯ いろんな背景と文脈そしてストーリーを抜きには語れないゲームだったと、個人的には思ってます。

ゲームは誰のものか(何度目)

勝手ばっかでごめんなさい!こんなことばっかり思ってるから僕はきっと勝てない。あぁ情けない。でもトップレベルで戦う人たちのことは、嘘でもなく本当に尊敬してます。Jリーガーなんて、僕らからしてみたらバケモンの集まりだもの。ホントに。

Make Your Happy。見ている人たちに幸せをあげられるのがプロ。僕らにはない力を持っている人たちなのだから。

もちろん何を幸せと思うかは人それぞれなので、あの試合で幸せを受け取った人もたくさんいたとは思う。だからこの文章は、僕の一つの理想論でしかありません。そして何より、試合に出られず複雑な思いもあったはずなのに、中村憲剛が見せた振る舞いは、まさにプロフェッショナルそのものでした。

最後に

ゲームは誰のものか。それは、プロとアマチュアでは絶対に違う。

アマチュア、ましてや育成年代は、間違いなく「ゲームは選手のもの」です。
そこに異論の余地はないはず。

しかし、ゲームは誰のものかを明らかに勘違いしている大人が(指導者も親も)育成年代にとても多いということだけは、最後に強く書き残しておきます。

も一つ最後に アジア最終予選で「これ負けたらW杯出られない」という試合では、内容なんかどうでもいいから勝ちだけにこだわってほしいけど、W杯本大会の決勝戦では、理想と思想に殉じて派手に散ってほしい。でも、世界中の人々の記憶には永遠に残る、みたいな。僕はそんな感じです。ホント勝手だな⋯


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?