彼の隠れ家
箱の中には何も入っていないはずだ
ただの四角い箱、少し錆びた金具
でも彼はその箱を大切にしていた
毎晩、夜の静けさの中で
箱に触れると、何かを感じるような気がした
最初は小さな音がした
箱の中から、何かが動くような音
彼は耳をすませたが、何も見えない
それでも、毎晩その音を聞くことが楽しみだった
箱が何かを語りかけてくるような気がした
次の日、彼は箱を開けてみた
何も入っていない、ただの空間
でもその瞬間、箱の中に浮かぶ
小さな光が見えたような気がした
まるで、箱の中に時間が閉じ込められているかのように
彼はその箱を開けたことを後悔した
だが、後戻りはできなかった
箱の中の光は次第に大きくなり、
やがて彼の手のひらを包み込んだ
光は強くなり、彼の体も、箱も、
そしてその周りの空間も、すべてが歪んでいった
彼は恐怖を感じたが、目を閉じることができなかった
閉じるたびに、箱の中の光がもっと強くなるから
その光に引き寄せられて、
彼は目を開け続けた
その光の中で彼は何かを見た
それは無数の目、無数の顔、無数の手
箱の中には、彼の見たことのないものが
ありとあらゆる形で詰め込まれていた
そして、箱がひときわ輝く瞬間、彼は知った
箱の中にあるものは、彼自身だった
彼の記憶、感情、未解決の問いが
すべてその小さな箱に閉じ込められていたのだ
彼はその箱を、無意識に愛していた
だが、箱が閉じられる時
彼の存在は消える――
箱を閉じたのは、彼自身だったのだ。