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発達障害におすすめの趣味 5選

発達障害を抱えながら現代社会で生きる、というのは、何十キロのおもりを背負って山道を歩くようなもの。

とても、趣味なんかに時間をさく余裕なんかない。


そうかも知れません。

ですが、何の制約も受けずに自分の「好き」と向き合える時間。

それは人生においてとても大切な意味をもっています。


今回は、百の趣味をもつ男・イルハンが厳選した、発達障害におすすめの趣味を5つご紹介します。

僕の本業は作業療法士(=作業を治療手段として使うリハビリ専門職)なので、それぞれの趣味がもつ精神面・身体面への治療効果も交えてお伝えしていきます。


「作業をすることで人は元気になれる」


僕たち、作業療法士の真骨頂を感じて頂ければ幸いです。



[この記事の見方]

それぞれの趣味に対して、(1)手軽さ、(2)効果、(3)実用性、(4)ハマり度をつけています(5段階評価)。
あまり趣味がない、という方は手軽な趣味から始められることをおすすめします。
既に趣味をお持ちの方は、実用性(どれくらい生活に役立つか)、ハマり度(どれくらいのめり込みやすいか)を重視されるとよいかもしれません。
あるいは、効果(心身にどれくらいよい影響を及ぼすか)から選んでみてもよいかと思います。



①家庭菜園

(1) 手軽さ ★★☆☆☆


家庭菜園というと、定年退職をしてたっぷり時間のある高齢者が畑を借りて行うイメージが強くありませんか?

実は、始めるにはそれほどハードルは高くないのです。

品種によっては、大きめの植木鉢とそれを満たす程度の土を用意するだけでも始められます。
野菜のタネもホームセンターなどでは数百円で入手できます。

初期投資は、肥料などを含めても、1万円もかからないと思います。

ただし、始めるのにやや労力を要しますし、一旦始めると水やりなどの作業が発生するので、手軽さという点では、他の趣味に比べるとやや劣ります。


(2) 効果  ★★★★☆

農作業は、昔から作業療法士の間では、メジャーな治療手段の一つでした。

立ったりかがんだり、粗大な動きを伴うので、足腰の筋力強化はもちろん、指先の細かな動きも要求されるので手の機能向上にも役立つんです。

作業療法士は、農作業を、主に精神疾患への治療手段として用いていました。

それにはさまざまな理由がありますが、とりわけ、旬の野菜を育てることで季節感を取り戻したり、農作業を通して他者との交流を促せたりできることが大きいといわれています

僕も、いろんな野菜を育てる中で、妻や子どもたちと会話する機会が増えて、情緒的なつながりがより強くなりました。

イルハン家では、ベランダにプランターを置いて色んな野菜を育てています。
これまで育てた野菜は、プチトマト、スイカ、ほうれん草、ニンジン、タマネギなどです。
プロの農家のように大きくて見栄えのよい野菜は育てられませんが、自分たちで育てた野菜は、添加物が入っていませんし、とてもおいしく感じます。

そして何より、大人も子ども「食」に向き合う姿勢が変わります。

最近では、一般市民の食や健康への意識の高まりから、趣味としても脚光を浴びるようになっています。


ニンジン(間引かなかったので生育不良w)


ほうれん草


(3) 実用性 ★★★☆☆

正直に言うと、自分たちの消費する食糧をまかなえるほどの量を育てようと思ったら、かなり大変なので、食費が浮く、といったような実用性はありません。

しかし、自分自身の精神を安定させるという効果に加えて、子どもたちへの教育効果という意味では、なかなか実用性があります。

昨今、農業体験などがいろいろなところでできますが、一日だけの体験であることが多く、料金も割高です。
その点、家庭菜園では、種まきから収穫まで自分たちで行えるし、日々の成長を見守ったり、継続的なケアを体験できたりするので、農業体験イベントに比べて費用対効果は抜群に高いです。

事実、野菜嫌いだった息子は、野菜を育てることが大好きになり、今では好き嫌いがかなり減りました。


(4) ハマり度★★★☆☆

家庭菜園は、凝りはじめると止まりません(笑)

特にスイカ栽培は沼でした。

普通は苗を買ってきて育てるそうなのですが、イルハン家では、自分たちが食べたスイカの種を植えるところから始めました。

後で知ったのですが、この方法で実がなることはなかなかないそうです。

それを、成長に合わせて支柱を組んだり、虫除けネットを張ったり、栄養剤を投与したり、凝りに凝りまくって何とか実をつけるまで育てあげました。

小さな小さな実でしたが、あれを食べたときの感動は忘れられません。

しかし、手間ひまがかかることから、ハマるかどうかは、その人の性格によるところが大きいです。



②キャンプ

(1) 手軽さ ★☆☆☆☆



今回、ご紹介する趣味の中では、始めるのに最もハードルが高いかも知れません。

ですが、ご安心下さい。

最近は、手ブラでOKのキャンプ場も増えてきており、初心者でも始めやすい趣味になっています。

しかし、それでもやはり、キャンプ場の予約、出かける準備、最低限の器材の用意など、ややハードルが高いことに変わりありません。

しかし、便利さを求める時代だからこそ、もろもろの「手間」を楽しむことが、キャンプの醍醐味となるわけです。

僕は、少しずつギアを買い溜めて、今では自宅マンションのかなりのスペースをキャンプグッズが占めるようになりました(笑)

「手間」を楽しむことがキャンプの醍醐味なので、僕は、使用後に時間をかけてギアの手入れをする時間もたまらなく好きなのです。



(2) 効果  ★★★★★


林業や漁業などの、大自然を相手にするような一部の仕事を除いて、現代の仕事の多くが、自然とかけ離れた環境で行われています。

ですが、人間の心身機能は、未だに自然の中で生きることに適したままだといわれています。

つまり、あらゆる機械的刺激から解放される、屋外での活動は、それだけで、ストレスからわれわれを解放してくれるといえます。

焚き火を囲みながら、仲間と食べるご飯は最高ですし、それだけでも精神の安定化が図れます。

また、我が家では子どもと、薪割り・火おこし・調理・片づけまで一緒にするので、教育効果も絶大です。

キャンプに行くと体は疲れますが、心の疲労は限りなくゼロに近づきます。


我が家の焚き火台


(3) 実用性 ★★☆☆☆

キャンプに実用性を求めてはいけません(笑)

日々の生活に役立つかといえば、一部のロープワークや調理技術が「ちょっと活かせる」くらいかな、と思います。

ですが、電気のない環境で、あらゆる準備をするキャンプでは、災害などの非常時に役立つさまざまな知恵が身につきます。

事実、イルハン家のキャンプグッズの多くが、防災グッズと兼用になっています。

そういった意味では実用性が高い趣味といえるかもしれません。


(4) ハマり度★★★★★

「キャンプは沼である」

これはキャンプ好きなら、みんながいう言葉です。
まさに、その通りで、ギアを揃え出すと止まりません。

男子の本能として、「いい道具を手に入れてそれを実戦で試したい」というのがあるからなのかもしれません。

しかし、昨今は女性ソロキャンパーも増えているそうなので、これはもしかすると人類共通の本能なのかもしれません。

僕は、ハマりにハマって、オイルストーブなどは空き缶で自作してしまいます。

自作オイルストーブ

ゲームや賭博にのめり込むよりは健全だと、自分に言い訳して、そろえたキャンプグッズをみながらニヤニヤしています(笑)


③ランニング

(1) 手軽さ ★★★★☆

ランニングはかなり手軽に始められる趣味の一つです。

靴は持っているでしょう。
服もあるでしょう。

あとは、ドアを開けて外に飛び出すだけ、という感じです。

走るペースやコースで難易度は無限に調節可能です。

一人で走ってもよし、数人で走ってもよし。
好みに合わせて走るスタイルもいくらでも変えられます。

「はじめやすいけど続かない…」

という人は、難易度が高すぎるか、走るスタイルが自分に合っていないのかもしれませんね。


(2) 効果  ★★★★★

ランニングの精神面・身体面への効果は絶大です。

まずは精神面への効果ですが、ランニングなどの運動では、脳内でセロトニンとドーパミンの分泌が促されるといわれています。
セロトニンは、睡眠などの調節に関わっており、精神面の安定には必須の神経伝達物質です。
うつ病になるとセロトニンの分泌が減ってしまうことなどからも、セロトニンがさまざまな精神活動に重要な役割を果たしていることがわかるでしょう。

ドーパミンは、「楽しい」「快い」といった感情を生み出しますので、人間が意欲的に物事に取り組むために必要な神経伝達物質です。

オキシトシン、セロトニン、ドーパミンは、『三大幸せホルモン』と呼ばれています。

(※厳密には、セロトニンとドーパミンはホルモンではなく神経伝達物質に分類されますが…)

つまり、ランニングによって、幸せを感じるのに必要な3つの物質のうち2つの分泌が促されるわけです。


次に、ランニングの身体面への効果ですが、いくつかあるので以下にご紹介します。

・体全体を使った動きになるので、コリがほぐされ、全身の血のめぐりがよくなる。

・血のめぐりがよくなることに加えて、大量の汗をかくので「新陳代謝」が促され、体内の老廃物質が排泄される。

・息が上がらない程度のペースで週2〜3回、1回30分以上走れば、脂肪が燃焼されダイエット効果がある。

他にも、骨が強くなったり、心肺機能が高まったりと、たくさん効果があるといわれています。

普段デスクワークが多く、運動不足が気になる方には、ランニングをおすすめします。


(3) 実用性 ★★★★☆

ランニングの心や体への効果は前述した通りですが、「体が強くなる」というその一点だけでも、かなり実用的ですよね。

僕は、リハビリ職という、いわば体が資本の仕事をしていますが、丸一日がっつり臨床で体を使ってもあまり疲れなくなりました。

休日に、子どもたちと遊びにいっても、次の日に疲れをもちこすこともなく過ごせるのも、ランニングで鍛えた体のおかげといっても過言ではありません。


(4) ハマり度★★★★☆

さて、なぜランニングが発達障害におすすめなのか、気になってきませんか?

ここでは、ランニングこそ、発達障害者がどっぷり「ハマれる」趣味だという理由を説明します。

これについては、二つの観点で説明できます。

まず、ASDをはじめとした自閉傾向がある発達障害者にとっては、ランニング中はあらゆる外界の煩わしさから解放される「没我時間」なのです。

僕は都会よりも自然豊かなコースを走るのですが、都会の喧騒や、目にキツい人工的な色や光から逃れ、入ってくるのが全身からの筋肉や関節の感覚、地面の感覚だけになり(もちろん車や通行人などはみてますが…)、雑念がふり払われて文字通り「”自”分の中に”閉”じこもった」状態になるのです。

それがたまらなく心地よく、病みつきになります。

いわば、"瞑想"と同じ効果が得られるのです。


もう一つは、ADHDがある人にとっては、ランニングは思う存分注意散漫になれる「自分解放時間」なのです。

先ほどの説明と矛盾するようにみえるのですが、ランニング中はランナーたちはあちこちに注意を分散させています。
街中を走るのであれば、車や通行人、道路標識、新しくできたお店などに、絶え間なく注意をふり分けています。
山道や田舎道を走っているときは、野辺の花や遠くの山、鳥や流れる雲に注意を分散させています。

つまり注意散漫になっても誰からも怒られないし、むしろ注意をあちこちに向けていないといけないのも、ランニングが発達障害者におすすめの理由なのです。


これら二つの観点から、発達障害者がランニングにひとたびのめり込むとやめられなくなってしまうのです。

事実、僕の主治医もいっていましたが、ランニングにハマっている発達障害者は多い、とのことでした。



④お菓子づくり

(1) 手軽さ ★★☆☆☆

お菓子には、家庭に常備している一般的な材料でつくれるものもありますが、中には製菓専用の材料や道具を必要とするものもあります。
クッキーなどであれば、薄力粉、バター、卵があればつくれますが、最低でも、ハカリやボウルなどの道具は必要です。

もっとバリエーションを増やそうと思えば、それなりに材料や道具をそろえないといけないので、手軽さという点では、やや点数は下がります。

(2) 効果  ★★★☆☆

基本的に、お菓子づくりは、「食べてもらう」前提でつくることが多いかと思います。
もちろん、自分で食べる用につくるのもアリですが。

つくったお菓子が喜ばれたり、自分で食べて美味しかったりすると、「自己効力感」が高まります。

自己効力感とは、目標を達成するための能力を自らが持っていると認識することを指します。簡単にいえば、「自分ならできる」「きっとうまくいく」と思える認知状態のことです。スタンフォード大学教授で心理学者のアルバート・バンデューラ博士によって提唱された概念であり、英語では「Self-efficacy」と表現されます。

GLOBIS CAREER NOTE『自己効力感とは?自己肯定感との違いや高めていく方法』


またまた個人的な話で恐縮なのですが、僕は、妻が大好きなスコーンをつくってすごく喜ばれたことがきっかけで、その後レパートリーをたくさん増やし、今では以下のメニューを自分でつくれるようになりました。

・スコーン
・クッキー
・パウンドケーキ
・ベイクドチーズケーキ
・クレープ
・プリン
・ドーナツ
・シュークリーム
・ティラミス
・柑橘類のピール
・カヌレ
・メロンパン

自己効力感が高まったことが原動力となったのはいうまでもありません。

カヌレ


(3) 実用性 ★★★★☆

実用性という意味でいえば、添加物フリーのお菓子を家族で食べられる、雨が降った日に屋内で家族みんなで取り組めるアクティビティになる、といった点が実用的といえるかもしれません。

そもそも、僕がお菓子づくりにのめり込んだきっかけも、「子どもたちにはできるだけ無添加のお菓子を食べさせたい」という想いからなんです。

そして、「自分たちの手で美味しいお菓子がつくれる」と知った子どもたちは、今や小さなパティシエとばかりにはりきってお手伝いをしてくれます。

雨の日は、我が家は、『小さなお菓子工房』となります。
部屋中にたちこめる甘いお菓子の香りは、雨の日の我が家の定番です。


(4) ハマり度★★★★☆

お菓子づくりというと、女性の趣味と思われがちなんですが、実は性別関係なくどっぷりハマれる要素を持っています。

なぜなら、お菓子づくりでは、理論やデータが重要になってくるからです。

生地のふくらみは、細かな分量の違いで変わってきますし、なんと天候や気温によっても仕上がりにちがいが出ます。
うまくいかなかったときのデータを蓄積して、原因を調べて次回は少し手を変えるといった、いわば『研究活動』のようなものです。

夏休みの自由研究でワクワクしたのは、男子も女子も同じ。

うまくいったら「次はこういうのがつくりたい」と意欲が湧いてくるはずです。
その意欲はきっと、お菓子づくりだけでなく、人生のあらゆる場面で生きてくると思います。




⑤読書

(1) 手軽さ ★★★★☆

「読書」に苦手意識を持っている方も多いかと思いますが、現在出版されている本にはいろんな種類があります。

分厚い専門書から、1ページに4,5行しか文字のない詩集など、読書レベルに合わせた本はいくらでもあります。
それに、専門的な内容のことを予備知識がなくても読めるように書かれた入門書など、少し大きめの本屋さんにいけば、必ず興味のある一冊がみつかるはずです。

手に入れた一冊をカバンに忍ばせて、ちょっとした空き時間に開けば、それだけで始められます。

僕は、みんながスマホの画面を食い入るように眺めている電車内で、静かに本を読んでいる人をみかけると「素敵だな」と感じます。


(2) 効果  ★★★★★

読書の効果は実に多岐にわたり、ここでは一概に挙げることはかないません。
なので、あえて一言だけいわせて頂くとすれば、

「いい言葉との出会いは人生を変える」

ということです。

この世に存在するあらゆる本には『先人の知恵』が詰まっています。
本をつくりあげているのは著者だけではありません。
著者が参考にした文献の著者、著者が書いた文章を校閲する人、それを編集する人、挿絵を描く人…あらゆる人の叡智が結集されたものが、書店に並ぶ本なのです。

万有引力を発見したニュートンは、先人の知恵を借りて新しい視座に立つことを「巨人の肩の上に立つ」と表現しました。

読書とは、このように一人分の人生しか生きられない僕たちに、数多くの人々の知恵を与えてくれる行為なのです。

ネットに書かれた多くの無責任な情報とはワケが違います。

うつ病になってどん底まで落ちたときに救い出してくれたのも、新しい挑戦のときに勇気づけてくれたのも、全部、本を通して出会った言葉たちでした。

僕は、今でも苦しいときや辛いときに本を開いて言葉の力を借りることがあります。
そして、それらは、ときに、どんな薬よりも心を安定させてくれます。


親しい人との関係に悩んだときによく開く本


(3) 実用性 ★★★★☆

本には、いろいろなことが書かれています。
今では、大抵のことはネットで調べられますが、「一冊の本」という形に情報がまとめあげられていると、参照もしやすいので普通に役立っています。


(4) ハマり度★★★☆☆

読書には本来中毒性があります。
人間の脳内の「報酬系」(=ご褒美を追い求めるような脳のシステム)は、新しい情報に出会いそうな場面で活発に働くのです。

本のページをめくるときのドキドキ感がまさにそうなんです。

ですが、本の中毒性を上回る存在が世に出回るようになりました。
もうお分かりですよね。

「スマホ」です。

ボタン一つで、文字から画像から動画まで、あらゆる情報にアクセスできます。

スマホが僕たちを、読書から、じっくり情報を読み解き脳内に整理してしまっていくという行為から遠ざけてしまったのはいうまでもありません。

紙の本を、ページをたぐりながら読むことに慣れ親しんできた僕たちの脳は、目にも止まらぬ速さで情報が飛び交うスマホには慣れていません。

本当に身のある情報を手に入れたり、じっくり情景を想像しながら物語を読んだりするならば、読書をおすすめします。


いかがでしたか?
かなり独断と偏見で趣味を5つに絞りましたが、本当はもっともっとたくさん素晴らしい趣味はあります。

なんの制約も受けず、思い切り自分の「好き」に向き合える時間、みなさんも持ってみてはいかがでしょうか。


イルハン

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