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ADHD当事者が語る:多動・衝動性には理由がある

前回【ADHD当事者の感覚①】不注意には理由がある!では、ADHDの3つの特性の1つである「不注意」について、ADHDの当事者として、また行動分析士、教育者として多くのADHDの子どもたちと関わってきた視点から、お話ししました。今回は、残りの2つである「多動性」と「衝動性」についても、同じようにお話ししていこうと思います。
「ADHDの子って一体何を考えて、どんな気持ちで、あんな行動を取るのかしら??」
というあなたの疑問にお答えしていきます。


多動・衝動性の根源は?

本題に行く前に、まずは、ADHDの基本をおさえてもらいます。
不注意の根源と同様、多動や衝動性の根源にも「退屈=苦痛」が大きく関わっています。
ADHDは、「退屈に強い苦痛を感じてしまう特性」を持っています
しかし私たちの日常生活は、そんなに楽しいことであふれているわけではありません。そんな日常は苦痛ですから、それを避けるために、常にワクワクすること、面白いこと、目新しいものを探し求めています

どんな感じかと言うと、
「お腹がペコペコで、なんか食べ物がないか、常に探してしまう。お腹が空いているから集中できない」と似た感じです。
退屈=空腹、楽しいこと=食べ物、のような感じで、生理的欲求なのです。ADHDを持たないあなたにとっては全く苦痛でないかもしれないことが、ADHDにとっては「退屈過ぎてつらい」と感じることかもしれません。

面白いことが見つからなかった時、どうするか?

そんな時、彼らは退屈から逃れるため、あるいは快感を得るために自ら「刺激」を作り出します。それが、いたずらや白昼夢、鼻歌、貧乏ゆすり、おしゃべりなど、不適切な行動とみなされるものであることもあるので、頻繁に叱られることになるのです。


【DSM-5】9つの多動・衝動性の症状

前回同様、DSM-5から、ADHDの多動性、衝動性に関する9つの症状を下に記載します。

多動性・衝動性症状

  1. 手足をそわそわと動かしたり,身をよじったりすることが多い

  2. 教室内またはその他の場所で席を離れることが多い

  3. 不適切な状況で走り回ったり高い所に登ったりすることがよくある

  4. 静かに遊ぶことが困難である

  5. じっとしていることができず,エンジンで動かされているような行動を示すことが多い

  6. 過度のおしゃべりが多い

  7. 質問が終わる前に衝動的に答えを口走ることが多い

  8. 順番を待てないことが多い

  9. 他者の行為を遮ったり,邪魔をしたりすることが多い

一つずつ見ていきましょう。


1. ADHDはなぜ「手足をそわそわと動かしたり,身をよじったりすることが多い」の?

それは、上記の「多動・衝動性の根源」で解説した通り「退屈だから」ですね。
退屈から逃れるため、あるいは快感を得るために自ら「刺激」を作り出しているところだからですね。
ずっと座っているのは退屈で苦痛なので、その苦痛を取り除くために、体をよじったり、手足を動かします。しかも結構、気持ち良いですよね。

思い返せば、私が小学生の頃、授業中は常にガタガタ体を揺らしていました。当時、私の学校の机とイスはこのようなタイプのものでした。
私はいつもイスの足の片方を机の足にのせ、イスをシーソーのようにアンバランスな状態にして、ぎっこんばったんイスを揺らしながら授業を受けていました。ですからよくイスごと後ろにひっくり返ることもありました。


2. ADHDの子はなぜ「教室内またはその他の場所で席を離れることが多い」の?

退屈が苦痛で、常に無意識に面白いものを探してしまうからですね。
退屈に耐えられなくなって、用もないのに、用があるフリをしてふらふら歩き回ったり、はたまた「おもしろいモノ」を発見してしまったのかのしれません。

私の場合:中学生の時

私が通っていた中学校は私立の女子校で、珍しく「読書の時間」というのが授業としてありました。図書室で読みたい本を選び、自席に戻り、ただ静かに本を読むという授業です。
私にとっては「退屈に耐えられず、常に何か面白いことを探してしまうADHDの本能が冴え渡る授業」でした。自分の席に座ったことはほとんどなく、1年を通して数分程度でした。
ですから、先生にずーーーーっと注意され続けていました。でも全く従いませんでしたね。手に取るのは性教育の本くらいで、友だちと一緒に見ては笑っていました。先生のいない間に勝手に先生の手帳を見ると、クラス名簿の私の名前の欄が、真っ黒々になるほどチェックが入っていました。「こんなことして意味あんのー?」と友達と笑い消しゴムで消しておきました。
まぁそんな私が、のちに中学の先生になるんですから、そんな事実を知ったら、あの先生は気絶してしまうかもしれません。


3. なぜADHDは、「不適切な状況で走り回ったり、高い所に登ったりすることをよくする」の?

前述の通り、ADHDは常に面白そうなことを探してしまう特性を持っているのですが、「ワクワクすること=危険なこと、悪いこと」にも大変惹かれてしまう性質を持っています

高いところが大好きだった子供の頃。なんでそんなに好きだったの?

高いところは、怖くて危険です。だからこそワクワクして刺激的なのです。
私も子供のころは、高いところに登ることはすご〜く好きでした。登り棒や高鉄棒のような遊具だけでなく、木登り、電柱、壁など、登れそうなものを見るとよじ登っていました。高いところから飛び降りるのも好きでしたし、高いところから物を落としたり、投げたりするのも大好きだした。
「もし落としたらどうなるんだろう」など、実験しているような気分でおもしろかったのです。
より高いところに登るのは、景色がいつもと違って面白いのに加えて、達成感を感じていました。「私は誰よりも高いところに登ることができた」みたいな。

不適切なところで走るのはなぜ?

私は今でもなぜか突然走ってしまうことがあります。その理由はいくつかあります。

  1. 歩くのが退屈で早く目的地に到着したいから。

  2. なんとなく。体の調子が良かったり「気持ち良い」と感じたので、走ってみたくなっただけ。

  3. 自分の中でルールを決めて「ゲーム」をしている。←これが一番多いかも。

3の例は、電車に乗っている時「今日は一番に改札を出よう」と決め、戦車が目的の駅に到着しドアが開いた瞬間に走り出し、誰よりも早く改札を出て「ヤッター!いっちばーん!」と心で喜んだり、道を歩いていて、「あの角に到着するまでに、あのおじさんを抜こう」と決めて、走って抜いて「あーよかったー」と思ってみたり…。このゲームに全く意味はないんですけど、退屈しのぎに勝手にゲームを作って遊んでいるんだと思います。


4. なんでADHDは「静かに遊ぶことが難しい」の?

正直、「静かに遊ぶことが困難」って具体的にどんなことを言っているのかよくわかりません。「黙って一人で遊ぶことが苦手」ってことですかね?熱中できる一人遊びなら、黙々とやりますけどね。

5. なんで「じっとしていることができず、エンジンで動かされているような行動を示すことが多い」の?

「じっとしていることができない」に関しては、もう何度も言及している通り、退屈が苦手だからですね。この特徴のせいで、生活の質に支障をきたしていることがあります。それは「睡眠障害」です。私、寝るのが上手ではないんです眠りにつくまでの間、ベッドの中でじーっとしているのが苦痛で苦手だからです。その性格のせいで、まだ眠いし疲れているのに、寝るのあきらめて、起きてしまうことがあります。

次の「エンジンで動かされるような行動」に関しては、イメージできないですね。私もしているのかもしれませんが、自覚がないです。周りからはそう見えることもあるかもしれませんが。
もしかしたら「慌てたり急いだりしている行動のこと」ですかね。私はせっかちで、急ぐ必要がないのに、急いでしまいます。それは「退屈なことが苦痛のなので、早くやってしまおう」という気持ちが強いからだと思います。


6. 何でADHDは「過度のおしゃべりが多い」の?

それは「楽しいから」です。
これは、女の子のADHDに多いと言われています。
ADHDは、常に面白いことを求めているので、頭にいろんなことが浮かんできます。それが面白いので、誰かと共有したくなるのです。
私はものごころついた時からおしゃべりで、人を笑わせることが大好きでしたし、今でも大好きです。
おしゃべりは私にとって最も楽しいことの一つです。


7. なんで「質問が終わる前に衝動的に答えを口走ることが多い」の?

答えがすぐに浮かんでくるため、なるべく早く言いたいのです。「 早く言わないと!忘れないうちに早く言いたい!」って気持ちです。
あと、わかっているのに、待たなければならないのは、じれったく感じるからです。退屈が苦痛なので、仕方ないですね。


8. 「順番を待てないことが多い」のはなぜ?

待つのが退屈だからです。
私も待つのは苦手です。日常でつらいのは、赤信号とレジ待ちです。
赤信号で待ちたくないので、信号のタイミングを計算して、遠くから走って、青で渡れるようにしています。信号が赤に変わったばかりで相当待ちそうなら、遠回りをしても良いから、待たなくても良い道を選んで歩きます。もしくは、車が来ていなければ、赤でも渡ってしまいます。
レジも待つのが嫌いで、最も早そうなレーンに並びます。もし選択を誤ると、窒息するくらい残念な気持ちになります。


9. 他者の行為を遮ったり、邪魔をしたりすることが多い

これをしている自覚がないですねー。可能性を3つあげておきます。
①「他の人が今やっていること」を考慮せずに、ただ面白いことを(冗談や遊びで)思いついてやってしまい、その結果、他の人の邪魔をしたのかもしれません。

②あるいは、先ほど述べたように、待ちきれないので、他人の順番を気にせず自分のことをやり始め、その結果、他人の行動を邪魔してしまったりするのかもしれません。

あるいは、ADHDは自分の基準で判断するので、他の子がやっているやり方が一般的に正しいやり方であっても、ADHDの人にとっては無駄なことだと感じ、割り込んだり邪魔をしたりすることがあるかもしれません。


最後に

【ADHD当事者の感覚①】不注意には理由があると合わせて、多動と衝動性の三つの症状の理由を個人的な見解で述べてみました。
あなたのお子さんや周囲の人々の中にADHDの人がいたら、その人のことをイメージしながら読んでもらえると、「そういえばそうかも」と思い当たるところがあったかもしれません。そしてあなた自身にも少し似たようなところが見つかったかもしれません。
このような感覚を知ってもらうことで「ADHDを障害」とくくるのではなく、もう少し身近な特徴だと捉えてもらえたら嬉しく思います。


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