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僕の好きだったひと 4



とことん君はズルかった。

全ての感情を見透かして、君はいつも笑ってた。
私にはその笑顔が、悩殺級の凶器だった。



しっかりと大人になってしまった私には、
あんなにも誰かの一言一句に振り回されるような恋など、
きっと後にも先にもあれだけだろう。

君には全部読まれてた。どんなに隠そうとも、先手を打ちたくても、
君を振り回したくても、全部、先に駒を置かれる。




初めは何も思わなかった。こんな先生来たんだなーってぐらいで。
女子高生にはそんなもんだよね、一体いつからなんだろう。

気づけば、君の授業の時間が楽しみで仕方なくて、
目が合うと嬉しくて、きっと隠せずにやにやしてた。



君の授業は移動教室だった。

授業終わり、教室を出るのが最後になるようにわざとゆっくり片付けて、
教室を出る君に話しかける。

職員室に向かうまでの廊下での数分間、君の隣を歩く時間が、
君との会話が、どうしようもなく楽しくて、嬉しくてたまらなかった。


君との時間は、気づけば恒例化していった。
いつものように廊下を歩き、そのまま職員室に向かう君と、
教室に戻るために階段を上る私。

別れ際は、いつも完璧なタイミングで会話が終わり、別れも告げず
そのまま二人の距離が離れていく。



いつも君はズルかった。

私の心を弄ぶような言葉ばかりで、十代だった私は
その一言一句に心臓を掴まれてばっかりだ。



あの日もお決まりのように、二人で教室を出て歩き始めた。

君は話始めるときに必ず私の名前を呼ぶ。下の名前で呼び捨てで。
完全なる心理テクだ。
それだけでも十分、私の心臓は血塗れだった。



「ねえ、歌穂。誰かとご飯を食べに行ったとして、人が親しくなるのは、
正面で向かい合って、顔を見ながら話すのと、カウンターとかで
隣に座って話すの、どっちだと思う?」


『え?どっちだろ、、顔を見ながら話す方?』


「んーん、違うよ。今の俺らみたいに、こうやって隣で話す方。」



その瞬間に彼は職員室の方へ向かい、私は階段を上り始める。


彼に背を向け、階段を上りながら、頭の中は沸騰していた。

つまりはどういうことなんだ、、!

彼は十代の私を弄ぶように、その言葉にどんな意味が含まれるのか
悶々とさせるだけさせて、ほら、また笑って私を殺すのだ。




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