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第六話:"効く"記事体広告の書き方 ~オリエン・USP設定・タグライン設定~

ではいよいよ、実際の仕事の流れに沿って具体的な書き方の話に入っていきます。またあらかじめお断りしておきますが、これはあくまで私なりに色々試行錯誤しながら考えたもので、決してこれが正解だ!と言いたいわけではありません。営業スタイルやコピーのスタイルにも人それぞれあるように、記事体広告(≒タイアップ広告)の作り方だって100人100様だと思います。自分なりのスタイルを考える上で、あまりにも論じられてない分野の広告手法である記事体広告という分野においてのひとつの参考意見にしていただければ幸いです。

オリエン:広告主の熱量を受け取る場

全ての広告は広告主と制作者の顔合わせであるこの「オリエン」からスタートします。これまで何度かお話してきたように、クライアント担当者の商品にかける想いに感動を覚えることも多い場です。オリエンの一番の目的は、「闘魂注入」だと思います。広告主のブランド愛を(ヤケドしない程度に)しっかり受け取って、すっかり感染するための場です。質疑応答に一生懸命になるのではなく、素直に商品のよさを感じ取ることが大事(Don't think! feel!)です。

ただ、オリエンの場で必ず聞かなきゃならないこともあります。それはブランドページやスペックだけを見てもわからない、広告主だけが持っているインナーのマーケティング情報。たとえば競合とのシェア割合や、ヘビーユーザー・ライトユーザー・ノンユーザーの認識差などです。1位が25%のシェアで2位につけるクライアントが20%のシェアなら、その5%の差分を埋めるための方法を考える仕事なんだなと理解できますし、日本でどれくらいの人が使っている市場なのかというイメージもつかめます。ヘビーユーザーとライトユーザーに明確な認識差があれば、コンテンツによってその差分を埋めればよいということになります。原稿に入れない情報でも、企画を360度考え尽くす際に参考になるデータは必ずオリエンの場で聞いておきましょう。

表現を考える前に、まずはWhat to sayを定める

私が代理店に入ってすぐの頃、広告学校で最初に教わったのが「How to sayを考える前に、What to sayを決めなさい」ということです。これを抜かすと土台のないところに塔を建てようとするようなもので、途中で必ず瓦解します。そして、このWhat to sayを定めるのに必要な作業が、これからお話するUSP設定とタグラインの設定です。

USP設定:すべてのコミュニケーションの起点を定める

まずUSPはUnique Selling Propositionの略で、競合に比べてその商品が有意に優れている点です。これは、既に商品開発や年間のキャンペーンで設定されているのですが、マス向けのアプローチとクラスター向けのアプローチだと粒度が違うため、記事体広告を作るにあたっては「そのメディアの読者にとって、何を言うべきか」を改めて設定する必要があります。

よくやりがちなのが、その商品の特徴が5つあるような場合に、自社メディアに合う特徴1つを選んで記事にする方法です。しかしこれだとあまりにも安易だと思います(少なくとも、価値創造にはなっていない)。5つの特徴をすべて足し合わせた上で抽象的に集約して、なおかつ自社メディアのフィルターにかけた時に導き出される一点を定める、というのが正しい方法だと思います(たしか何かの本で巨匠・大貫卓也さんがこのようにすると言ってた記憶があるのですが、どの本か探し出せていませんなう)。

とはいえ、これではあまりに抽象的なので具体例を挙げます。「おまもり年賀状」という折ったらおまもりになる年賀状の案件で、特徴は「新規性」「インスタ映え」「カスタマイズ性」「折る楽しみ」「おまもりになる」でした。ありがちなのが「うちのメディアはインスタ好きが多いから、インスタ映え押しの企画でいきましょう」的なやつです。でもインスタ好きが多い、というのは他メディアにも言えるし、他の選択肢を捨ててそれ1つを選ぶ妥当性が極めて低い。この時に提案したのは「想いを、「願い」のカタチで送れる新しい方法」というUSPです。おまもりなので、送るメッセージが「来年は受験成功しますように」などお祈りの形になり、ライトで自然な形なのにたっぷりと思いやりを伝えられる。これはスマホのあけおめLINEでも他の方法でも、絶対にできない唯一無二の特徴です。

タグライン設定:読者とブランドの「関係性」を作る

同じ広告学校で、次に習ったのが「広告とは、ベネフィットの約束である。」ということでした。消費者に対して、日常の欠落点を埋め合わせるベネフィット(便益)を予め約束して売り場で買ってもらう行為、これが広告です。

このベネフィットには3層あります。まずは一番わかりやすい「機能ベネフィット」で、たとえばお掃除ロボットなら「自動で床を驚くほど綺麗にしてくれる」ですね。もう一つが「情緒ベネフィット」で、「毎日の床掃除からの解放感」になります。最後に「自己実現ベネフィット」で、これは「掃除で浮いた時間で自分らしいDIY家具を作れる」というような人間らしい創造性につながるベネフィットです。この3層のベネフィットを整理したうえで、タグラインに落とし込みます。

タグラインとは、「消費者とブランドとの新しい関係性を定義するコピー」です。広告キャンペーン共通の「落としどころの一行メッセージ」であり、ベネフィットの約束を行うコピーでもあります。それ単体だと表現として抽象度が高いことが多いため、広告クリエイティブにおいては通常キャッチコピーが別途設けられることが多く、キャッチコピーで惹きつけて→タグラインで締めるという構造になっていることが多いです。

たとえば「そうだ京都、行こう。」は悠久の都、京都にふさわしい何十年にも渡る普遍のタグラインですが、このキャンペーンの場合は「京都の風景」がビジュアルキャッチになっています。そこに京都の石庭や紅葉を見てふと自分を取り戻した時の心のつぶやきが補完的にキャッチコピーとして入っていて、「そうだ京都、行こう。」のタグラインで締めるのが共通フォーマットです。約束しているベネフィットは「いつでも行ける、自分のルーツに還れる場所」というようなところでしょうか。「京都」が実家の父母のように、「いつでも帰ってこい」と言っている。娘・息子である「日本人」が遠慮しないように毎年言い続けている。そんな関係性を運輸サービスによって守り続けることをJR東海が約束している。永遠に続いてほしい、続くべき広告キャンペーンです。

記事体広告のタグラインの具体例も出します。さきほどのおまもり年賀状でいえば、機能ベネフィットが「想いが分量多く込められる」、情緒ベネフィットは「相手が面白がってくれる」、自己実現ベネフィットは「気の利いたものを贈る人だと強く印象づけられる」というところで、ベネフィットを3層に分解した結果、最も読者に刺さると思われた自己実現ベネフィットを強めに出して表現に落とし込んだ「印象度No.ワン!の年始挨拶」をタグラインとしました(来たる年が戌年だったので)。このメディアは駄洒落など一切無い上品なメディアだったので、「駄洒落×かわいい」なら嫌悪感は抱かれないだろうというヨミで、異物感(広告表現のフックとして超大事)によるエッジを狙いました。結果、CTRは通常の10倍くらい出ました。

記事体広告においては、タグラインは最終段落の見出しに置くことが多いです。まずは最終段落のメインメッセージを定め、そこに向けて前段を逆算して書いていくという作業になります。タグラインについては、小霜 和也さんの「ここらで広告コピーの本当の話をします」という本がわかりやすくておすすめです。

さて、次回は記事の構成について書いてみます。今回設定した記事の落としどころである「タグライン」に向けて、読者の感情を逆算して記事を書くにはどうすればいいかを、私なりに綴ってみます。

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