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INSPIRATIONS: 自然とデザインをつないで考えるためのヒント 4月

自然とデザインをつないで考えるためのヒントをピックアップする「INSPIRATIONS」。新旧問わずに、デザイン、アート、ビジネス、環境活動、サイエンス等の領域を横断し、ACTANT FORESTメンバーそれぞれのリサーチに役立った、みなさんにお薦めしたい情報をご紹介します。

01:劣化した土壌回復のための「ゲームチェンジャー」としての微生物

微生物は土壌で大きな役割を担っていて、栄養循環の調節、有機物の分解、土壌構造の決定、植物病害の抑制、植物の生産性の向上など、さまざまな機能に関わっている。だが、その土壌の劣化が世界的(地球的)に大問題となっている。人間の活動によって土地が荒廃し、自然がもたらす数々の恩恵を減じさせてしまっているからだ。今回のNatureの論文は、そうした劣化した土壌を微生物を活用して回復させるための最新研究と、今後の長期的な戦略についてまとめたもの。微生物がまさに劣化した土壌の回復の「鍵」であり、「ゲームチェンジャー」であるというのが彼らの主張だ。

Soil microbiota as game-changers in restoration of degraded lands
https://www.science.org/doi/10.1126/science.abe0725

02:ロンドン芸術大学で自然を取り入れたデザインコースが開講予定

ロンドン芸術大学のカレッジのひとつ、セントラル・セント・マーチンズが、2022年秋から「Regenerative Design」の修士コースを開講予定だ。「人間だけのものではない世界(more-than-human world)」において、クリエイティブな実践をしていくための学びを提供する。デザイナーやエコロジスト、文化人類学者などの講師チームとともに「生物多様性、気候、文化、社会経済的な公平性」などを学び、「超ローカル(ultra-local)」での実戦に取り組む。「超ローカル」とは、自分自身が住んでいるところの生物も含むコミュニティ入っていき、その「再生(Regenerative)」デザインプロジェクトを進めていくことをいうそうだ。授業のほとんどはオンラインで受講できるため、どこからでも学びと同時に、ローカルな実践を進めていくことができる。

03:自然にしかつくりだせない構造を取り入れる、木材のアップサイクリング技術

MIT建築学部のケイトリン・ミュラー准教授のチームが、通常は廃棄・粉砕されてしまう「ツリーフォーク」(樹木のY字型の分岐部分)を、建築の構造部品として利用する新たなアップサイクリング手法を開発した。荷重の効率的な伝達に優れた、ツリーフォークの複雑な繊維ネットワーク。自然がつくりだしたその構造は、3Dプリンタなど現代の技術でも再現できないという。これを木造建築のジョイント部に用いることで、従来の環境負荷の高い鉄鋼やコンクリートの部品から置き換え、建築材料のサーキュラーエコノミーを推進しようとする研究だ。街路樹の整備などで伐採されたツリーフォーク群は、3Dスキャンでデジタルライブラリに変換され、アルゴリズムを通じて、設計データ上の「結節点」に、最適な角度や強度の個体が分布するよう割り当てられる。そして、接続する部材に応じたカット用データが自動生成され、ロボットアームが帯鋸で加工を施す、という設計から部品の製造までをカバーするフローとなっている。規格化されていない素材をいかにデザインの与件とするか。新たな展開につながっていきそうだ。


04:グリーンからブルーグリーンへ。水害と共存する都市のインフラストラクチャ

海面上昇や集中豪雨による洪水や河川の氾濫。気候変動がもたらす災害は日本でも年々増加しているが、とりわけ貧困エリアに深刻な水害リスクを抱えるアフリカやアジア、南米などの都市では、よりレジリエントなインフラへの転換が喫緊の課題となっている。そこで必要とされているのが「ブルーグリーンインフラ」の導入だ。いわゆる「グリーンインフラ」も、自然の機能を取り入れて都市を整備しようとするアプローチだが、特に水害との共存という観点から「ブルー(河川・運河・湿地等)」と「グリーン(樹木・芝生・公園・森林等)」を一体的に計画しようという考え方だ。その好例とされるのが「海綿都市(スポンジ・シティ)」。雨や洪水などの水を都市から排出するのではなく、自然のインフラによってスポンジのように保持・吸収する仕組みに置き換えようとするもので、建築家の兪孔堅氏が牽引し、2013年から中国の多数の都市で導入されている。タイニーフォレストのような取り組みも、今後ブルーグリーンインフラの一部として位置づけられていくかもしれない。


05:人新世(アントロポセン)における新しい生態を集めたビジュアルブック

人新世に生み出されたハイブリッドな生物をとりあげたビジュアルブック。人間の臓器を背負ったネズミ、プラスチックを食べるミミズ、放射能から身を守るチェルノブイリ菌など、人間の行動やテクノロジーがもたらした意図しない結果が、中世の寓話図鑑のような体裁で表現されている。テクノロジーの発展の末、生物圏と技術圏が融合し、何が「自然」で何が「自然」でないのかを定義することが困難になったとき、一体何が起こるだろうか? ポスト自然環境で生きるとはどういうことなのか? キュレーターのニコラス・ノヴァは「無垢な自然と汚染された人間の技術という古い観念を捨て、現在の世界をありのままに見ることができたとき、私たちは真に共に生きる方法を模索することができる」と語る。何よりもマットブラックの紙にシルバーインクで印刷された美しい装丁と、マリア・ロスコウスカによる魅力的なイラストが、読者のさらなる想像力を刺激する重要な役割を果たしている。

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