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へーレンブーレン #02: 新しく立ち上がる協同組合のメンバーになった

Takeshi Okahashi

昨年、記事で紹介したオランダの協同出資式コミュニティファーム「へーレンブーレン」。

知人から話を聞き、実際に訪れ、その活動の面白さとラディカルさに魅了された勢いで書いたものだった。この記事の中でも詳しく説明しているが、改めて簡単に説明すると、200家族ほどが共同組合をつくり、1つの農場を自分たちの野菜や果物、卵のために生産するコミュニティファームだ。農作業は、担当のファーマーが1人雇われ、野菜から鶏、飼料、果物にわたるまでの面倒をみる。もちろんメンバーもボランティアで手伝う。日本で有機農業に取り組んでいる知人に話をしたところ「すごく面白い。でもそこまでいろんなことを1人でやるってクレイジーだね」と言われるくらい、ちょっと普通ではない仕組みを持ったコミュニティファームのようだ。(なぜこれが成り立っているのかについては、また改めて記事にしたいと思っている)

へーレンブーレンで出会った人たち

そして、僕がこの活動に魅了されてしまったもう一つの理由が、関わる人たちとの交流だった。へーレンブーレンのガイドツアーのあと、親切に声をかけて下さったおばさまが、その場で開かれた小さな青空お茶会に誘ってくれた。そのおばさまサンドラさんとその友人のリアンさん(中国系の血筋もひく、彼女も気さくでアクティブなおばさま)と他2〜3名の人たちとインスタントコーヒーを啜りながら、リアンさん手作りのハーブ入りクッキーをいただいた。クッキーを2つ、3つとつまみながらおしゃべりしているうちに、こんな場所でこういう人たちと野菜をつくったり、おしゃべりできたら、僕も家族も楽しいのではないか。そんなことを想像し始めていた。

近代農業に覆い尽くされている国の一角で、ラディカルな農業共同体活動が生まれ、少しずつ広がり始めていると言うストーリーには痛快な面白さがある。と同時に、僕が出会ったサンドラさんやリアンさんのような市井の人たちが、「食べものの仕組みが何かおかしいことになっている」という気づきを行動に変えて頑張っているからこそなのだと言うことを知った。食べものに関しては、安全性や輸送(カーボンフットプリント)の問題、補助金の問題、土壌劣化の問題など、多くの社会課題が紐づいているのにもかかわらず、実際に行動を起こしている消費者は少ない。規制やお金の問題で新たな方法にチャレンジしにくい状況もある。(オランダでも新規で農家になるのはかなり大変なことだそうだ)

青空お茶会で、サンドラさんとリアンさんは、新しいへーレンブーレンを立ち上げるためにもう2年近くも奔走していると話してくれた。土地の問題、お金の問題、地元での説明会やメンバー候補集め、オーガニック農業についての勉強など、やるべきことは沢山ある。それも、完全なボランティアで取り組んでいるようだ。想像するに、お金も時間もかなりの持ち出しだ。それでも、おばさま2人コンビは、来週もどこそこの農場に視察にいく予定なのよ、と好奇心全開モード。僕は「頑張ってください。ぜひ実現するときには声をかけてください」と、半分は本気、半分はいつになるのだろうかと思いながら伝え、その場を後にした。

新しいへーレンブーレンが立ち上がる

だからこそ、その数ヶ月後となる2020年の年末に、リアンさんから「ついに私たちのファームが始まります」というメールをいただいた時は、嬉しびっくりだった。彼女たちの努力が実ったのだなと、感慨深くもあった。

メッセージには、「参加メンバーになることに関心のある方は、関心を示す書類にサインして送ってください」とも書いてある。よくよく地図を見てみると、予定されている農場は、そこまで遠いわけでもない。自分も、彼女たちの新たなプロジェクトに参加することができるのだ。その可能性について、真面目に考え始めた。

へーレンブーレンは話を聞くだけであれば、とても良い活動だ。自然にやさしい農法を取り入れているし(オーガニック認証は、取るためのコストがかかるからしていないそうだ)、メンバーの間で議論しながら野菜や果樹を育てていくので、食べ物や自然との距離がぐっと近くなる。そして、近しい関心とビジョンを共有できる仲間ができるのも大きい。天候や害虫などで収穫が思ったようにうまくいかないリスクはあるが、そこも含めてファーマーとメンバー同士が話し合い、課題を解決しながら取り組んでいくことは、まさに農業や食べものの生産が身近になることでもあるだろう。社会的にも、環境的にも、良いことばかりだ。

しかし、実際にそこに参加するかどうかは思っていた以上に大きな「決断」である。最も大きな問題は「毎週、それなりの量の野菜を洗って、調理して、残さず使い切れるのか?」という疑問だ。ワークフロムホームな毎日で自炊中心の生活を送っているとはいえ、毎週ある程度の量の野菜を消費していくためには、それなりの準備や慣れが必要だろう。なじみのない野菜もあるだろう。しかも、あたり前だが、土がそのまま、葉っぱがそのままの野菜たちを下準備するのだけでも意外と手間がかかる。原則、毎週現場に野菜を取りにいかなくてはならない。自分の予定に合わせて、自分の食べたい野菜をちょっと近所のスーパーに買いに行く、というのとは勝手が違うのだ。

さて、どうするか。家族会議が何度か開かれた。うちの場合は、昨年夏にオランダに移住したことでより自由がきく働き方になったことと、新型コロナの影響もあり、家での自炊が定常化している。今後も、感染症の動きいかんにかかわらず、こうした生活が続くことが見込まれる。なので、へーレンブーレンとの相性は問題なさそうだ。あとは、野菜をピックアップする手間をどうみるか?マイカーを持っていないので、不便を感じるかもしれない。自転車でも通えない距離ではないが、片道1時間かかってしまう。シェアカーが得策か。しかし、細かいことを気にしていたら何もできない。ここは思い切って参加するという判断をすることになった。

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へーレンブーレンへの参加プロセス

早速、サンドラとリアンに連絡を入れる。2021年の年が明けてから、メンバーシップの登録が本格的に始まるので、仮の参加意思表明書にサインをしてPDFにして送る。早速、最近のミーティングで話し合われたメモが送られてきた。

メモには、農園になる予定の土地についての説明や協同組合の立ち上げに関する話、そしてボードメンバーになる希望者や最初のメンバーのリクルーティングについて書かれていた。2月1日までに、最低150家族のメンバーを集める必要があるそうだ。メンバーのリクルーティングに関してボランティアで手伝ってくれる人を募っていた。僕も個人的に何人かの知人に声をかけたが、興味を持つ人はいても実際に参加を決断するまで至った人はいなかった。

そして、メモを英語に機械翻訳しながら読んでいてびっくりしたのは、サンドラとリアンたちは、今回の協同組合の作り方を、通常のへーレンブーレンの作り方と少し違うやり方でやる予定で進めている、という報告だった。通常は「オランダへーレンブーレン財団(Stichting Herenboeren Nederland)」という全国組織の人たちがボードメンバーに入って運営されるそうなのだが、今回の場合は自分たちでボードを作る形を取る。それが、地域により多くのへーレンブーレンを作っていきやすい仕組みにつながるからだそうだ。

この背景には、今回のへーレンブーレンが比較的都市部に近いところにあることとも関係していそうだ。下の画像は、へーレンブーレンのサイトで、どこに稼働中の農場(ロゴ)と準備中の団体(オレンジと緑の丸印)があるのかのマップになる。稼働中の農場は、オランダ南部や東部の中規模の街の傾向があり、アムステルダムからロッテルダムにかけての人口密集エリアにはまだ数が少ないことが見てとれる。今回新しく立ち上がる農場はアムステルダムとハーグのあいだにある。都市部に近いエリアでもへーレンブーレンが成り立つならば、今後より広がっていく可能性も高くなる。実際、土地探しや資金集めにかなり苦労したようだ。今回の新しいへーレンブーレンは、この大都市近郊にもへーレンブーレン型の農場を増やしていく布石となるのだと思う。

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コミュニティファームが立ち上がるまで

今年の2月に入ってから、無事200家族が集まったというメールが届いた。リクルーティングはとてもうまくいったようだ。今後の予定としては、オンラインでのミーティングが開催され、経営メンバーの現状や土地の購入プロセス、農場を作るためにどんな投資をしていくのか、どんなデザインや予定で進めていくのか、どんなワーキンググループを立ち上げていくのかが話しあわれる。

オランダは、かなり日が長くなり、日差しも少しずつ暖かくなってきている(高緯度地域なので本当に夏が遠い)。近々、ぜひ農場予定地を訪れてみたい。実際の収穫は夏以降になるはずなので、本格的なへーレンブーレン生活はまだ先だ。それまでは、自分なりに農業のことや野菜のこと、こちらの地場の野菜を使った料理にチャレンジしたりしつつ準備をしていきたい。

仮想ACTANT FOREST NLというつもりで、何かプロジェクトを立ち上げられたら良いなとも思い始めている。新たに参加することになったへーレンブーレンの今後の活動や進捗も伝えていく予定だ。

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