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INSPIRATIONS: 自然とデザインをつないで考えるためのヒント 3月

自然とデザインをつないで考えるためのヒントをピックアップする「INSPIRATIONS」。新旧問わずに、デザイン、アート、ビジネス、環境活動、サイエンス等の領域を横断し、ACTANT FORESTメンバーそれぞれのリサーチに役立った、みなさんにお薦めしたい情報をご紹介します。

今月は、米ワイオミング州のDAOを活用した新たな土地管理方法や、デザインや都市計画に自然を組み込むための情報サイト、虫にフォーカスしたデザインやアートなどのトピックをお伝えします。


01:フォージング(野生の食材採集)のススメ

南イングランドを拠点に活動するナチュラリストのジョン・ライトがフォージングの魅力について語る。「フォージング」とは、自然のなかを遊歩し、野生の食べ物を採集することだ。私たちの遠い祖先にとっては、採集は生活の一部であり、必要不可欠なものだった。伝統的な文化には食べ物を見つけるための歴史と知識が備わっていて、どの時期に何が見つかるかが仔細に共有されていた。彼はその失われたナレッジを活かした体験を現代に提供している。その体験は、食料を得るという結果だけでなく、自然との関わり方や愛着に変化をもたらすそうだ。確かに普段「買って食べる」ことに親しんでいる私たちにとって、「探して食べる」という食体験は、畑で「育てて食べる」以上に自然との距離感が近い。何らかの感覚変容をもたらしてくれそうだ。


02:暗号資産で「市民」になれる。まちづくりの実験場「CityDAO」

最近何かと話題のDAO(分散型自立組織)。「CityDAO」は、ブロックチェーンによってアメリカのワイオミング州の土地を購入すると、その土地の「Citizen = 市民」になれるというプロジェクト。「市民」は、政策変更、規制、法律などの決定について投票する権利を得ることができる。いわば、デジタル領域に限定されてきたブロックチェーン技術を物理的な空間やコミュニティに活用する実験場だ。このような取り組みの是非がわかるにはまだしばらく時間が必要だろう。けれども、この仕組みを自然環境の所有管理に応用したらどうなるだろうか、と思考実験するのはとても楽しい。例えば、いたるところで持続的な管理が難航している里山のオルタナティブなエコシステムにならないだろうか。


03:レンガでハチの生息地を増やす「Bee Brick」

「Bee Brick」は、ハチの巣を兼ねたコンクリート製のレンガ。この穴の空いたブロックを家や壁などの建造物に組み込むことで、個体数の減少が進む単独性ハナバチに住処を提供することができる。英国ブライトン・アンド・ホブ市では、5m以上の建物を新築する際にこうしたレンガを導入する規制も制定されている。Bee Brickを生み出したのは、コーンウォールを本拠に構えるGreen&Blue社。ダイソン社出身の夫婦が始めた会社だ。「Give Nature a Home(自然にホームを)」の合言葉の通り、他にも鳥の巣や餌台、コウモリの巣など、身近な環境を生物多様性のためのスペースに変えるプロダクトがあり、どれも可能な限り環境に配慮した素材と美しいデザインが追求されている。


04:IKEAのデザインリサーチラボSPACE 10が解説する、「リジェネラティブ・デザイン」入門

IKEAのデザインリサーチラボ、SPACE 10のジャーナルに「リジェネラティブ・デザイン」が取り上げられている。これは、自然や社会の持続可能性を担保する「サステイナブル」なデザインとは異なり、自然本来の繁栄力や浄化力などを活かした、自然の「再生(Regeneration)」を織り込んだデザインのこと。例えば、オーストラリアのカーペット会社「Interface」は、工場を森と捉え(Factory as a Forest)、ビジネスのためだけでなく生態系の繁栄を促すような仕組みづくりをおこなっている。記事では、リジェネラティブ・デザインの考え方や事例がわかりやすくまとめられており、さらに学びを深め、自身が関わっていくための関連情報のURLもリストされている。


05:虫たちに花粉を提供する、生きたアートワーク《Pollinator Pathmaker》

「ポリネーター(送粉者)」と呼ばれる、花粉を媒介するハチ類や蝶類。これらの生物は、植物をはじめ生態系に不可欠な存在であるにもかかわらず、生息地の喪失や農薬、侵入種、気候変動などによって年々減少し続けている。アレクサンドラ・デイジー・ギンズバーグによる本作は、“ポリネーター・センタード”な庭づくりを通じて、この危機に一石を投じようとするものだ。作品の中心となるのは、専門家たちと共に考案されたアルゴリズムツール。地域や土壌などの条件を設定すると、四季を通じて最も多様なポリネーターを招き入れる植栽の設計図が、虫の眼から見た色彩で生成される。作品のコミッショナーであるエデンプロジェクトには、この設計図に基づく植物群が実際に植えられ、続いてベルリンやロンドンでの展開も計画されている。ツールはウェブ上でも公開されており、誰でも自分の土地にあった庭をDIYできるようになっている。増えすぎた都市養蜂の弊害や都市部での野生植生の必要性が指摘されるなか、こうした庭づくりは、虫たちとの関わりを深める新たな道を開くことになりそうだ。


06:都市計画に自然を組み込むプラットフォーム「CitiesWithNature」

2050年には世界人口の2/3が都市に暮らすと予測されるなか、生態系が都市の存立を支えていることを再認識し、都市計画・開発の施策に自然のシステムを統合しようとする実践が世界各地で行われている。CitiesWithNatureは、こうした取り組みを推進する自治体や専門家、団体などのための知識共有プラットフォーム。ICLEIIUCNThe Nature Conservancyによって創設され、現在61か国から209都市が参加している。ウェブサイトでは、自治体向けのロードマップツールが提供されているほか、一般ユーザーがアクセスできるリソース集も充実。さまざまな国際機関が発行するレポートやガイドラインが集約され、近年急速に発展しつつあるグリーンインフラやNbS(自然ベースのソリューション)などのグローバルな知見や動向を学ぶことができる。

CitiesWithNature
https://citieswithnature.org/

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