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地域課題解決こそが共有価値と新産業を創出する


 今回は神戸市でのエバンジェリストとしての役割、活動内容についてお話したいと思います。

 一言で言うと、「地方都市にスタートアップ企業が参画するイノベーションのエコシステムを創出する」活動です。そのために、神戸市が先駆者としてこれまで取り組んできた活動を伝道し、さらに先をいく活動に広げていくのが仕事です。

 神戸市に入る前までずっとIT業界で仕事をしていました。日本の大企業2社と米国シアトル発と京都発のスタートアップ2社で働きました。

 ちなみに、京都発が金子勇が創業したスタートアップです。なぜ京都かというと彼が京都府警に逮捕されたからです。話はそれますが、金子さんはその時、東京大学で助手を務めていて、東京まで刑事がきて手錠をかけられて新幹線で京都まで連行されていきました。

 ほぼすべての期間、この技術革新が激しいこの業界のイノベーションの最前線で仕事をさせてもらったと言えます。

 そんなぼくがIT、デジタル分野においてイノベーションの最前線がどのように技術の相互的な進化で起きてきたのかを、俯瞰したのがこの図になります。

イノベーションの最前線は社会課題解決型へ

 この図は地域と関わる仕事をはじめた時から、なぜ「テクノロジーによる地域課題の解決」が重要かを説明するために使うようになりました。

 当初は、GAFAという言葉も今ほど浸透していなかったこともあって、理解されにくかったようですが、最近は「なるほど」と言ってくれる方も増えてきました。

 簡単に説明すると、イノベーションの最前線は90年代のビジネス空間のデジタル化からはじまります。そして2000年代からの生活空間のデジタル化。ここで現在のGAFAやGAFAMといわれるテックジャイアントの時代になります。

 金子勇のすごいところの一つは、GAFAが隆盛してくるより先にこの日本で消費者主導型のイノベーションを、それもたった一人で100万人をこえるユーザーを巻き込んで、「逮捕されるまで」やり続けたことです。

 そして現在が社会空間のデジタル化にシフトしています。SDGsやサーキュラーエコノミー、メタバース、ウエルビーイング、Web3といった最近のバズワードもこの文脈で見ると一過性の概念ではないと理解できます。

地域課題とビジネスの相関

 以前はこういった社会課題や地域課題解決型の新規事業がなかなか理解を得にくかったと言いました。
 当時は「地域課題解決=社会貢献」という文脈で見られがちで、「お金にならない慈善事業をベンチャーがやるのか?」ともよくあちこちで言われました。

 資本提携していただいた事業会社に、実証実験の予算を相談にいくと、「そういうのはCSR部門でお金出して貰えば?」と相手にされないこともありました。

 最近ではCSRからCSV(Creating Shared Value)という概念が日本でもようやく定着し、変わってきました。

 社会課題解決こそが大きなビジネスチャンスである。このためのPOC(実証実験)の重要性も浸透しつつあります。

社会課題こそが大きなビジネスチャンスという共有価値

 8年前ぐらいからこの実証実験をいくつかの自治体とやるようになります。そこで、地域もそれも高齢化や人口減少が進んでいる地方都市に行くほど、ここにあるような差し迫る地域課題を実感しました。

 これは神戸のような大都市を含めて濃淡はあれど、日本全国の共通課題ということも学びました。

 課題の最前線にいる地域の課題をテクノロジーで解決することこそがイノベーションによる価値を生む。日本にとってもこの地域課題への取り組みが産業力の再生につながると考えるようになりました。

 過去の歴史にない速度で少子高齢化社会の進行を日本は経験していますが、日本はその先頭を走っているに過ぎません。アフリカなど一部の地域を除けば世界のほとんどの国が少子高齢化社会が進んでいきます。

 だからこそ、こういった地域の課題解決が大きなビジネスチャンスにつながるのです。

地域の最前線でこそイノベーションは生まれる(先進都市の実現)

 ぼくがスタートアップ企業で地域と仕事をするようになった同じ時期に神戸市はスタートアップ施策をスタートさせています。そのきっかけが、神戸市長の久元が2015年に姉妹都市であるシアトル出張の帰りにサンフランシスコを視察したことでした。

 ここでスタートアップとのコラボレーションによる地域課題解決への取り組みを目の当たりにしたそうです。

 ちょうど国がオープンデータの利活用について大号令をかけていた時期で、アメリカの大都市が大企業ではなくスタートアップと自治体が組んでやっているということに感銘したわけです。

 ここから神戸は全国に先駆けたスタートアップ支援事業を次々と進めていきます。

これからの地域に必要なイノベーションのエコシステムとは?

 では、今後の地域が必要とする「イノベーションのエコシステム」とは、どんなものなのでしょう?

 「イノベーション」はよく「技術革新」に置き換えられますが、これは正しくありません。「イノベーション」とは技術が新しくなることではありません。

 それまでとは違う様式や形態の仕組みやシステムが新たに導入される、あるいはそれまでのものを置き換えることにより、非常に価値の高い生産活動や社会活動が実現できるようになることがイノベーションの本質です。

 ちなみに「DX(デジタル・トランスフォーメーション)」は特定の業務やサービス、事業や組織の変革に特化した用語として使われることが多いと思いますが、本質は同じことです。それまでデジタル化されていない、あるいは部分的にしかデジタル化されていない業務やサービスをデジタル化により再編や統合することで、それまでとは違う様式や形態の仕組みの業務やサービス、組織、ビジネスモデルに作り変えることです。

 最初に働いた日立製作所で、まだ30歳前後の頃にサプライチェーンのBPRとバリューチェーンの再構築について大きなチャレンジをいくつもさせてもらいました。例によって失敗をたくさんしましたが、成功もいくつかしました。
 特に、30代前半の時に企業間取引のBPRや国境をまたぐ関連会社間のバリューチェーンの再構築というデジタル化のプロジェクトにいくつも取り組めたことで、この意味と価値を実体験で学びました。またその実現の難しさを深く理解するようにもなりました。

 次回はこの地域が主導する「イノベーションのエコシステム」の意義とそれがなぜこの時代に必要なのかについて、さらに掘り下げてみたいと思います。


神戸市 チーフ・エバンジェリスト 明石 昌也

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