連鎖を断ち切る個人の「力」と「あり方」(第二期:第7回②)
前節の試算は、単純計算をするために、前提として、どの両親にも子どもが1人であることと両親のマッチングをランダムとしています。しかし、当然、現実にはきょうだいもいるでしょうし、カップルは相性によってつくられます。またその他にも数多くの要因がこの問題に、しかも複雑に絡み合っています。
1.レジリエンス~ストレスを受け流すしなやかさ~
ここでは、その複雑に絡み合う要因のひとつとして考えられる「レジリエンス」という概念に触れます。これは、「柔軟性」や「しなやかさ」という言葉で説明されるような、ストレス耐性に関わる性質で、ストレスに「打ち克つ」というよりも「受け流す」力で、安心感との関連からも注目される性質です。
この「レジリエンス」が高ければ、同じようにトラウマとなり得る出来事があっても、受けるダメージは少なくなります。レジリエンスが高いことが「安定型の愛着」と厳密に同じとは言えませんが、家族がその思考や行動パターンに影響されるのは自然で、これも「受け継がれる」性質であると考えられます。
虐待の連鎖をストレスの伝達と考えれば、レジリエンスはストレスを「受け流す」ことでその「連鎖を断ち切る」要因となり得ます。また、前節で「遺伝のように」考えた際のように、レジリエンスを受け継ぎ維持することができれば、虐待やストレスの流れは、世代を追うごとに「浄化」されていくはずです。
2.ストレスの伝達と移行
他に記載したとおり、トラウマやストレスが伝達する「方向」は、川の流れのように、その行われる場所(組織)において基本的に「上から下に」向かいます。虐待であれば、大人から子どもへ、いじめであればクラス内の強者から弱者へ、職場では上の立場から下へハラスメントが起こります。逆は稀です。
虐待であれば、両親をはじめとする力の強い家族メンバーが抱えるストレスが「上流」となり、その出所が「源流」となり、実際に被害に遭うのは「下流」にいる人となります。いじめやハラスメントにおいても同様です。したがって、どこかで流れを堰き止めるだけでは他の場所で溢れかえることとなります。
家庭が社会に含まれる限り、大人にとっての社会(の一部)である「職場」や、子どもにとってのそれに当たる「学校」等は、家庭と「ストレスの水路」でも繋がっています。ある老夫婦の熟年離婚が、乳児の虐待死に繋がるというのは、非現実的に聞こえるかもしれませんが、現象として起こり得ることです。
3.連鎖を断ち切る「あり方」
家族療法では、家族全体を捉えて、症状を呈した個人を家族の病理を代表した「患者と見なされた人(IP)」と呼びます。これは、家庭に流れ込んだストレスがどこで滞り、溢れることになったかという理解で、マングローブの木が吸収した海水の塩分を排出するために1枚の葉を犠牲にすることと似ています。
虐待やいじめが「社会問題」であるならば、被害に遭う子どもは、木全体の塩分を請け負って枯れ落ちるマングローブの一枚の葉のように、家庭や学校を超えた「社会全体のストレスの犠牲者」であると言えます。職場における自殺を含む過労死やハラスメントの問題もその観点から理解する必要があります。
裏を返せば、子どものいない家庭であっても家族を思いやり、いじめの加害者が抱える苦しみにも目を向け、組織の責任者が誠実で注意深くなれば、ストレスの「水量」を減らし、虐待の連鎖を断ち切る取組の一部となるということです。日常レベルの私たちのあり方さえも虐待の連鎖に関与する要因です。
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