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「愛着障害」理解の 前提となる関連事項(第二期:第3回②)

1.いくつかの用語、実験・調査研究

 ヒトの新生児は非常に無力で、生後すぐに立ち上がる多くの哺乳類の新生児と同様の段階になるのは、1歳頃と考えられています。この早く生まれる現象を生理的早産、その後の約1年を子宮外胎児期と呼びます。どちらもポルトマンによる用語で、この時期の子どもがいかにデリケートな存在かが分かります。

 子ザルを針金製で哺乳瓶の付いている模型と布で覆った模型のある檻に入れて育てるという実験はハーロウにより行われました。子ザルは布製の母親に抱き着いて過ごし、成長後、様々な症状を呈したそうです。この実験からは、サルでも栄養だけでは育たず、他者との相互交流が必要であることが分かります。

 実験において電気ショックを与えられた犬は、回避が可能な状況であれば回避行動を学習しますが、不可能な状況が続くと諦める(無力感を学習する)ようになり、後に様々な症状を呈しました。実験を行ったセリグマンはこれを「学習性無力感」と呼び、人間のうつ病研究等に応用されるようになりました。

 生後間もない乳児の養育に多くの大人が関わったイスラエルのギブツという集団農場や、1930年代の乳児院での調査においても、子どもたちに様々な症状が見られたそうです。これらの報告は「母性剥奪」、「ホスピタリズム」という用語とともに語られます。ここで欠如していたのが母性や愛着ということです。

2.これらから分かること

以上の実験や調査から3つのことが分かります。

①人間の子ども、特に乳幼児は非常にデリケートで守られる必要があるということ
②それは特定少数の大人によって行われる必要があるということ
③それらが欠けている環境では子どもは健全に育つことができないこと

これらは愛着や虐待の要点です。

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3.愛着(attachment)

 愛着と訳されるattachmentという概念は、ボウルビィによって用いられるようになりました。この用語は親子間の情緒的な絆を指し、愛着を表現する乳幼児の積極的な行動を「愛着行動」、乳幼児が愛着を向ける特定の対象を「愛着対象」と呼びます。子どもから大人という方向性がまず重要です。逆ではありません。

 繰り返し強調しますが、愛着(attachment)は、あくまで特定の他者との関係において成立します。これは特定個人間の唯一性と一回性の認識と体験を重視するフランクルによる愛の定義と重なります。対象を限定して他と区別すること、つまり「排他的」であることがボウルビィの愛着とフランクルの愛の共通点です。

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4.「愛着」に関連して

 また、愛着は自分や他者、外の世界を認識(信頼)する基本的な在り方に繋がります。これを「基本的信頼感」と呼びます。外界を安心できる魅力的な場所と認識するのか、敵意や悪意の潜む疑うべき場所と認識するのかは、人生における体験の質と量、子どもであれば成長や発達に大きな差を生むはずです。

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 愛着と基本的信頼感の関係は、エインズワースの「安全基地」という概念で理解しやすくなります。知らない場所で子どもが母親と分離し再会する新規場面法という実験において、母の不在が不安を呼び、再会を喜べばその子どもにとって母は安全を感じる「基地」のような機能を持っているということです。

 実母に限らず母性的な愛着対象を安全基地とすれば、子どもはそこから探索行動(外界への働きかけ)を徐々に試みるようになります。したがって、そこで危険を感じたり、充分に安心できなかったりすれば探索行動は影響を受けます。安全基地の機能不全をネグレクトを含む虐待であると考えて良いでしょう。

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5.まとめ

 子宮外胎児期と言われる1歳までの人間の子どもは、特に無力で繊細な存在です。子どもが健全に成長・発達するためには、特定の他者つまり愛着対象への関わりが必要です。それが安全基地として充分に機能しないと、危険や不安は解消されず、安心感を得られず、発達が阻害され、様々な症状に繋がります。

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