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だから私はアイドルをやめた

心が散らばっている時ほど、心と真逆の事をしてしまう。
学校も行けないほど心がとっちらかっていた時、誰にも言わずアイドルオーディションに申し込んだ。
狭い事務所で名ばかりの面接をしたら、その日のうちにその事務所に所属が決定した。
アイドルが好きなわけではなかったし、寧ろ苦手とも言えた。劣等感を刺激されるため、可愛い女の子が苦手だった。可愛い女の子がちやほやされる様を見るのが嫌だったし、羨ましくて妬ましかった。

そんなことを思うくらいなら私もそっち側になれば良いじゃんと思い、ネットでオーディションを調べて申し込んだ。あれよあれよという間に初ライブまで決まってしまって、秋葉原の本当に小さい箱で、大森靖子さんとジュディマリの歌を歌った。歌うことは本当に好きだったし、大森靖子さんもジュディマリも大好きなのだが、素人のカラオケを聞かせてお金を取るなんて正直罪悪感しかなかった。こんなのがアイドルと言えるのか分からないが、Twitterをやったりチェキを売ったりした。

半年くらいそんな調子でライブをしたら、元バンドマンで、プロデューサーと名乗る大人の人がライブを見に来た。そしてめちゃくちゃにダメ出しをされた。歌が下手すぎる、方向性が定まってない、他は忘れたが色々と言われた。マネージャーとこの人の言っていることが真逆じゃんと思い、どっちを信じたら良いか分からなくなって嫌になって辞めてしまった。

全く根性がないし、そもそも動機が不純すぎたし信念もなかった私は辞めて当然だった。
こんな私が惰性で病みながら続けていたら、アイドルにもファンにも失礼だ。
朝起きられないしどうしてもオタクはキモいと思ってしまうし可愛い子は嫌いだし歌上手くないし踊れないし毎日自撮りするの疲れるし人と比較してしまって病むしアイドル好きじゃないし、と、辞めるべき理由を挙げればキリがない。

ただ、可愛いと真正面から向き合ってもだれにも咎められない、むしろ可愛いを極めた者が勝つ世界は私にとって新しくて楽しくもあった。今まで、SNSなどで自分の画像ばかり載せると、ナルシストだのぶりっ子だのモテようとしてるだの言われる事を気にして息苦しさを感じていた。
可愛いに制限も際限もない世界が新鮮で嬉しくて少しだけそこに居れたことは良かったなと思う。

私はアイドルを辞めてしまったけど、日々努力して可愛いを達成して届けてくれるアイドルに対して、ものすごく尊敬するようになっていた。やっぱり可愛い子は妬ましくもあるけれど、努力は美しいし、私に出来ないことをやってのける彼女たちはすごい。そして可愛いに際限がない世界は、ものすごく可愛くてキラキラと輝いていた。