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夏を知っていく。

苦手なビールをビニール袋に入れた左手が君のアパートの手摺を掴んで今日も私は階段を登る。
「扉の向こうには希望が待ってる」、
君の好きなバンドの歌詞を口ずさみながら重たい鉄の扉を開ける。
いつもみたいに君のソファが私に馴染んだ頃、ビールを飲んでご機嫌な君は無理やり私の髪を乾かすけれど、私はその瞬間の無言が好きだった。
本当に聞きたいことなんて聞けないし、この轟音だらけの世界で君に会う度に私はビールを飲むのが上手くなってしまう。
味も、匂いも、炭酸も、嘘ばかり歌うあのバンドと同じくらい私は大嫌いだ。

家に着いて、冷房の効きすぎた部屋で髪と君と私の未来を乾かしていたら夏風邪をひいた。夏を過ごしていた。