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#58|19 2020年9月10日 鯖と嘘と噂

 Caballo Blancoで待ち合わせをして同じクラスの人たち何人かとビールを飲んだ。旧市街の一番端にあり、フランスとの国境がある山脈が遠くに見える見晴らしのいい場所にある。ビールと言ってもスペインではよくあるビールにレモン味のソーダなどを足しているのも飲んだ。そこで初めて会ったRは痩せた男で吃音症が入っているのかどもりながら話していた。もう1人時間通りに来ていたのはメキシコ出身のAだ。背の高い縮れた長い髪の女で、絵に描いたようなラテン系の明るさを振る舞いている。2人はこの街では長く、N大学で既に知り合っていたらしい。少ししてから一昨日あった赤毛のAとその同居人でもあるAが合流した。Aとは一昨日席が近かったので多少話したが、Aとは席が遠かったのであまり話さなかった。Mは僕が1杯目を飲み終える頃に到着して、ウェイターが注文を取りに来るのを待っていた。スペインでは日本のように客から店員に声をかけることはなく、目で合図を送って席まで来るのをただひたすら待つ。働く側は常に気を張っていなくてはいけないはずなのでかなり疲れるだろう。
 2杯目を飲んでから次の店に行くことにした。旧市街の中心部にあるバル、Otanoに行った。RとAは用事があるとかで先に帰ったので4人で行った。よくある立ち飲みと小さなテーブル席のある奥行きのある伝統的なバルの作りだ。まずは赤ワインとオリーブのピンチョスを頼んだ。爪楊枝にオリーブと何種類かの野菜のピクルスが刺さったピンチョスで酸味が利いていてなによりもアンチョビの塩味が心地よく、酒が飲まさる。2つ目に注文したのはサバのピンチョスで、薄切りのトーストの上にクリームチーズとレタス、スモークサーモンが乗っていてその上にオイルサーディンと玉ねぎのみじん切り、そして塩漬けのいくらが乗っていた。正確にはいくらじゃないかもしれない。日本でよく見るいくらや筋子よりは大分粒が小さかった。醤油漬けされているわけではないので全く和風の味はしない。
 それから背の低い若干しゃがれたような声のNが合流した。簡単な自己紹介は何とか出来たが、周りの声がかなりうるさく、3メートルくらい離れていたので他の話はほとんど聞こえなかった。その後背の低い縮れた黒髪のAも来たが同じように自己紹介が限界だった。諦めて隣のAと話した。
 Otanoを出るとセビーリャ訛りのAとおたまじゃくしのような髪形をしたBも合流して、何とか開いている店を見つけられたのでそこで白ワインを飲んだ。Aはやたらと恋愛事情を詮索してきたのでとりあえず嘘はつかなかった。スペイン人の女はどう思うかだとか、最初に女の人のどこを見るだとか、写真を見せてきてこの女の人は可愛いと思うかだとか、口説くときは何をするかだとか、いろいろ聞いてきた。思っていたよりも話しやすい人で仲良くなれるかな、と感じた。ワインを2杯くらい飲んだところで店じまいになったので外に出た。もう開いている店はなかなかないので何人かは帰り、Mと一緒にAの家で少しだけ飲むことにした。スペインでは比較的安く買えるピスタチオとカシューナッツをつまみながらまずい缶ビールをゆっくり飲んだ。

4時頃になってAの家を出るとMがあの2人のことをどう思うか、と尋ねてきた。まだ2回しか会ってないしそんなに深くはわからないけどとりあえずはいい人そうだと思ったと言うとMは洗いざらいこの人はこんな感じが嫌だとか、つまらないだとか話していた。どうもスペイン人は噂話と言うか悪口を言うのが好きらしい。ここ何年も悪口とかを言うような会話をしていなかったので少し、はっ、とした。中学生のころなんかは積極的に言っていた気もするが、今、この歳になってこういう話をすることもあるある意味では矛盾のあるスペイン人の性格はますます複雑で難解だと再認識した。
 帰り道でMに本音で話すことはそう簡単じゃないことを伝え、その上でここまでバルに何度も誘ってくれたりしてもらって嬉しかったことや、人によっては人種差別に捉えられるようなことを言われたが心の準備をしていたし、大したことではないと思っているということなんかを話して、明日の3時ごろお昼を一緒に食べることを約束し、ハグをしてシウダデラで別れた。

(9/12 19:05 パンプローナ自室にて執筆)

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現在、海外の大学院に通っています。是非、よろしくお願いします。