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#45|6 2020年8月28日 知らない台所


 時差ボケかはわからないが、夕方に少しだけ昼寝をしようと思ったのに朝まで寝てしまった。気づかないうちに疲れていたのだろうか。札幌を出るまでつけていた日記は預け荷物に入れてしまったので23日以降書いていないので今日からまた再開しよう、などと思いながら目が覚めた。8時過ぎになると2人の話し声が聞こえてきた。起きてすぐに冷蔵庫から昨日買ってみた牛乳を飲んでいたのでそのコップを洗いがてら台所に行くと同居人たちが話していた。もう1人はスペイン人でグラナダ出身の女だった。わりとおしゃべり好きなのかかなり長い間2人で話していた。彼女はあまり英語が得意じゃないのか2人はスペイン語で話していたのでそれに倣ってスペイン語で会話に参加した。ハンガリー人のTは英語とスペイン語の切り替えが難しいと言っていた。簡単に自己紹介を済ませて部屋に戻った。
 窓から外を眺めていると曇っているせいか涼しい風が流れてきた。この季節にこんな気温になるのか、と少し驚いた。大した用事もしばらくないのでYouTubeとAmazon Primeビデオで時間を潰した。昼ご飯にフェットチーネをいつものレシピで作ったが、慣れない調理器具とIHのせいかあまりおいしく作れなかった。月並みだが、空腹という調味料をふんだんに使っていたのですぐに完食してしまった。

(23:34 パンプローナ自室にて執筆)

 夕方になってからまだ洗濯用洗剤を買っていないことを思い出して出かけることにした。昨日行ったEl Corte Inglésになら何でも揃ってるので同じ道を歩いていこうと思ったが、玄関を出るとしらないおばさんが目の前を歩いていたのでなんとなくその後ろを歩くことにした。地元の人の歩き方を真似ることが街を知るのに役立つ。すると、昨日歩いたスペイン版五稜郭の端を通り抜けてEl Corte Inglésの方向へ進んでいて、さらにこちらの方が少し近いように感じた。金曜日の5時過ぎだったせいか人通りも多い。なんとなく人の流れに乗ることにした。気付けばかなり街の中心に来ていたようだ。Tが話していた"SUSHIYA"にも偶然辿り着いた。時間だけはいくらでもあったのである程度のところまで散歩してみることにした。パンプローナに来る前にネットで見た牛追い祭りの銅像もたまたま見つけた。アントウェルプを思い出させるような、広い歩道を挟むようにお店が並んでいる。ほとんどが飲食店か服飾系だった。
 そういえば、紅茶用のティーカップをまだ買っていなかった。たしかGoogleマップでこのあたりにZara Homeがあるのを見た。道に迷ってもいい、どうせ時間はあるしスマホを開けば済むことだ。結果的にあっさりと見つけられたので入ってみると、思っていたよりも中は狭く、ほとんどが女性客だったが、そんなことはどうでもいい、と思いながらティーカップを探す。運よく理想的なティーカップが見つかった。ドイツでホームステイしたときにガストファミリエがいつも使っていた透明のガラス製のものが紅茶の色が綺麗に見えて気に入った。それ以来いつも透明なティーカップを探すようになった。札幌の家にもスイス製の透明なティーカップがある。割れるのが怖くて今回は持ってこなかった。こういう慣れない土地では「自分のもの」を手に入れると安心できる。もちろん日本から色々な物を持ってきたが、それらは自分の中で既に、ある意味で自分の一部になっているので失う恐怖はあるがそこまでの安心を手に入れることは難しい。当然中には安心を得られるものはある。ただ、それらは意図して持ってきたものだ。それだけに、失うことへの恐怖は大きい。
 ティーカップを買ってからEROSKIで食料品や洗剤などを買って帰った。ティーカップが割れないように包んでいたのは段ボールのような色の厚紙で、ちょうど千切れないようにシュレッダーにかけたように切込みが入っていてどんなものにも形が合うようになっていた。よく見るビニール製の空気が入ったやつよりもずっと保管場所を取らないし、捨てるのも簡単だ。耐久性には劣るが。でも家までならこれで十分だ。EROSKIはバスク地方のスーパーのようで、店内にはスペイン語とバスク語が書かれている。スペイン語が分からなかったときに英語に逃げようという甘い考えは通用しない。この街ではこの2ヵ国語が主流で、看板なども同じように書かれていることが多い。バスク語は全くわからないので少しくらいは覚えられたらいいな、と思うがたぶん学ぶ機会も余裕もないだろう。マドリードにいたときにも買っていたような大きなチーズの塊と日本では到底お目にかかれないような立派なイベリコ・チョリソーも買った。焼きたてのフランスパンが60セントくらいで売っていたのが嬉しかった。

(8/29 20:39 パンプローナ自室にて執筆)


現在、海外の大学院に通っています。是非、よろしくお願いします。