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#10 雪隠と留学 [第2部 ドイツ編] ep.II 「もくひょう」

 落ち着いた笑顔でまず迎えてくれたのはお父さんだった。

 部屋に荷物を置き、居間に通されると、長身のお母さんと二十歳くらいの長女がソファで足を組みながら赤ワインを手の平で転がしていた。

 紅茶でも飲まないかと聞かれ、Ja(はい)と答えると冷たいのと温かいのとどちらがいいかと聞かれた。外は少し寒かったがスーツケースを階段で運んできたので冷たいのが欲しかったが、初めて見る優美なドイツ人の家庭の姿に圧倒されて簡単な「kalt(冷たい)」という単語が口から出ず、湯気の立つハーブティーを汗ばみながら味わった。

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 さすがに数日経ち、ドイツ語脳に切り替わり始め、八歳のソフィがエアトベーレ(いちご)のドレスを着てダンスを披露してくれた頃には好みの紅茶を楽しめるようになっていた。

ホストファミリーはかなり紅茶好きの家族で、夕食時には必ず2種類以上の紅茶を用意していた。日によってはその他にもジュースが出てくることもあったが、健康面をかなり気にしているのか、お菓子の類は全くと言っていいほど出てこなかった。

 ドイツ人はよく2種類に分かれることが多いらしい。ワイン派かビール派か。コーヒー派か紅茶派か。この家族は明らかに紅茶派でワイン派だった。9時頃になるとソフィを寝かしつけ、大人だけでワインを飲んだ。

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 ソフィが学校に提出する一年間の目標などを書いた紙を見せてくれた。「だいじなこと」「かぞくみんなのけんこう」「もくひょう」「けんかしないこと」「たのしみなこと」「九さいのたんじょう日」

次回予告『#11 雪隠と留学 [第2部 ドイツ編] ep.III 「石畳」』

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