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#43|4 2020年8月26日 再突入

 今までの人生で最高であった。そう確信しながら味わった。梅風味のひじきが和えてあるそばと鶏肉のカツ丼。カタール航空の機内食は素晴らしい。
 この国はどんな匂いがするのだろう。ドーハ・ハマド国際空港に降り立ったのは現地時間で早朝4時。機内での長時間の映画鑑賞と不安定な睡眠で時差ボケなど関係なく60%程度の体調だ。読み方も意味も全く見当のつかないアラビア文字がスクリーンを流れていく。免税店はほとんど開いているが客はいない。どことなく漂ってくるのは焦げるほど熱した砂糖のような香ばしさと甘ったるさの混じりあった匂い。ふと横に目をやると、担架に乗せられた母親らしき人を人工呼吸する男。それを見守る警備員。後ろからは救急員が音もなく赤と黄色のランプを点滅させて近づいてくる。
 搭乗開始の1時間前に搭乗口前の待機場所で後ろの席の子供が、マンマンナンナン、と泣いている。赤ちゃんの泣き声にもやはり言語によって違うのだろう。何を訴えているのだろうか。
 マドリード行きの便が離陸して窓から下を見ると、トム・クルーズの映画でしか見た事のないような砂漠と薄い色の海のコントラストが広がっていた。中東に来たなぁ、と改めて思いながら中東を後にする。
 マドリード・バラハス空港への着陸態勢に入ると、後ろの方から、マンマンナンナン、と泣き声が聞こえてきた。この約8時間の中でこれまで泣かなかったことに驚きを覚えた。入国審査までの道順は数年ぶりにも関わらず結構覚えていた。初めて来たときはあまりにも未知の国で、どんな留学生活が待っているか心躍らせていたはずだが、今回は見知った相手である上にここが最終目的地ではない。
 空港内にはSIMカードを売っている店もあったはずだがどうやら閉店しているようだった。現金も円からユーロに換えたかったが、手荷物受取レーンの隣の外貨両替コーナーでは1ユーロあたり162円で取引だと書いてあり、あまりのレートの悪さに見送ったが、ここ以外に空港内に換えられる場所がないことに気付いたのは数分後である。
 慣れた手つきで地下鉄のICカードをチャージすると、日本に帰ってきてから使いもしないのに毎日持ち歩いていたマドリードのカードが変わらず機能したことに小さな喜びを覚えた。空港の隣にあるBarajas駅で降りてホテルへ向かう。結局まだSIMカードは買えていなかったのでインターネット接続はないが、大して距離もないので簡単に辿り着くことができた。ホテルの隣にはスーパーがあったのでガスパチョを買いに行った。品揃えを見て、「帰ってきた」と実感した。今日は文字通り長い1日になった。外は東京より渇いた暑さをいつもより少し薄い青の上から太陽が落としている。

(22:10 ibis Madrid Aeropuerto Barajas Hotelにて執筆)


現在、海外の大学院に通っています。是非、よろしくお願いします。