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加速者です。たいてい失敗しています。 映画と音楽から受け取るものを形にするため、not…

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加速者です。たいてい失敗しています。 映画と音楽から受け取るものを形にするため、note開始。

最近の記事

『セブン』観る者の心に傷を残す7つ目の大罪の恐ろしさ

 引退を控えたベテラン刑事サマセットは、新米刑事ミルズと共に殺人事件を捜査することになる。2つの現場には、同様に文字が残されていた。それを見た彼は、キリスト教における「七つの大罪」に絡めた犯行と気づき、殺人が続くことを予測するのだが。  今観て思うのは、ブラッド・ピットには現在ほどの表現力がない。ただそれはミルズの未熟さを際立たせていて、この映画の中で上手く機能している。そして、むちゃくちゃかっこいい。  フィンチャーも作今の作品ほどの完璧さはないが、暗くもクールな映像やカメ

    • 『ほつれる』明らかになる終わりとずっと続いていた終わり

       加藤拓也監督の2作目『ほつれる』について。今自分が夢中になっている行為が過ちだと分かっているときの苦しさ。それがずっと続いていく映画。夢中になっていたことが終わりを迎えても、過ちは続いていく。その苦しみに決着が着くときがタイトルで、それがラストなんだけど、何も解決しておらず、ただ終焉を迎えたという。一瞬の解放感とやり場のない憂鬱。  事実を回避しながら会話をしていた夫婦が、事実を話したとき、堰を切ったように感情が溢れ出す。一番残酷で、一番胸に迫るシーンだった。  この映画は

      • 今を生きるセックス・シンボル、デュア・リパの強烈な魅力

         デュア・リパの最新曲のビデオを観て彼女の魅力について感じたのが、性的エナジーの解放、男性とのそのシェア、声色・音の美的センスの追求、ファッションを含めたセクシーさというふうにオーソドックスなのだが、そのビジュアルのセクシーさと曲のエナジーの強さで、問答無用の魅力を放っている。  私はオリヴィア・ロドリゴも好きだが、彼女をシンガーソングライターとして愛聴しても、彼女にアイコンとしての魅力を感じないし、シンガーとしてこんなふうに求めるのは、スカイ・ファレイラ以来か。女優にのめり

        • 『エイリアン』おぞましい恐怖に支配されるSFホラーの金字塔

           鑑賞時、精神状態が悪かったこともあるが、静謐の中で感覚が研ぎ澄まされ、かつてない恐怖に襲われた。リドリー・スコットは、監督2作目にして、焼き直しの決してできない、SFホラーの金字塔を立ち上げた。本作以降、続編だけでなく、後発のSFホラーは数多く作られたが、この映画には遥かに及ばないだろう。  それにはH・R・ギーガーのエイリアンのおぞましいデザインも影響しており、その登場の恐怖をスコットは巧みに演出する。また、宇宙船のデザインもグロテスクで、舞台設定も見事である。  今でも

        『セブン』観る者の心に傷を残す7つ目の大罪の恐ろしさ

          『ブロークバック・マウンテン』恋により失い、恋により得た人生

           アメリカ中西部の広大な山地を舞台にした、2人の男のフラジャイルな恋。結婚生活が上手くいかなかったのは、彼ら2人の気質か?それとも、秘密の恋の時間があったからか?その両方か?  ヒース・レジャーはほぼ表情を変えず、ときに変えた瞬間、エモーションが爆発していた。ギレンホールはすぐに所作にあらわれる役で、2人の交錯する演技と一線を越える際のリアルさが最大の見もの。  同性愛を異質なものというより、誰でも踏み越えてしまう近いものとして描かれているようで、観ていてどこか居心地が悪くも

          『ブロークバック・マウンテン』恋により失い、恋により得た人生

          『グラン・トリノ』血の繋がりとは異なる大きな友情

           イーストウッドの登場とともにビビる。スクリーンで観てきたどの彼よりも、怖い。ずっと怒ってる。上手く子どもたちとやってこれなかった。足りないものばかり。  そんなとき隣に住んでいるモン族の家族と親しくなる。自然に国や世代を越えた友情が生まれる。イーストウッド演じるウォルト自身も変わっていく。その表現は一筋縄にはいかない。言葉遣いも表情も、観客から観てほとんど変わらないのだ。男は行動で示すべき、とイーストウッドは残りの生涯をもって、行動で彼らへの感謝とけじめを示す。その姿は感動

          『グラン・トリノ』血の繋がりとは異なる大きな友情

          『アイズ・ワイド・シャット』キューブリック最終作にして彼の新たな魔法

           数多の傑作を世に出してきたキューブリックの遺作。夫婦の関係性についてのドラマでありつつ、正体の分からない敵からの恐怖を描くサスペンスとしても一級。  また、トム・クルーズの魅力でいっぱいの作品でもある。彼の表情、仕草はとても繊細で、彼自身の優しさが役に表出している。  ポルノとしての側面では、官能的に思えるシーンと、性的に何も感じないシーン、グロテスクなシーンと、様々だったが、これはもちろんキューブリックの示唆するところだろう。  クリスマスのニューヨークの夜景を捉えた映像

          『アイズ・ワイド・シャット』キューブリック最終作にして彼の新たな魔法

          『羊たちの沈黙』美しき捜査官と天才的凶悪犯の深い繋がりとは?

           観ている間、ずっと夢中だった。完璧な映画。悪いところが見当たらない。ジョディ・フォスターの最高傑作。彼女の聡明さ、美しさ、繊細でありながら大胆な演技。魅了されっぱなしだった。アンソニー・ホプキンスは、レクター博士が本当に存在するかのような怪演。また、ハワード・ショアの荘厳な劇伴も、この映画をアップグレードさせている。そして、ジョナサン・デミはカメラワークの流麗さでもって、この映画の力を決定づけている。また、カメラは表情をキャプチャーすることを逃さない。学生時代以来の鑑賞だっ

          『羊たちの沈黙』美しき捜査官と天才的凶悪犯の深い繋がりとは?

          私たちは感情により思考を歪曲させられる。不安や絶望のなか、ポジティブな思考をするのは難しい。明けない闇はないから、今を生きつつもっと先を見よう。幸せのドアは何年も先で開かれている。未来の破片を拾って、周りと助け合っていこう。

          私たちは感情により思考を歪曲させられる。不安や絶望のなか、ポジティブな思考をするのは難しい。明けない闇はないから、今を生きつつもっと先を見よう。幸せのドアは何年も先で開かれている。未来の破片を拾って、周りと助け合っていこう。

          『イングリッシュ・ペイシェント』戦時下の後悔と旅立ちの叙事詩

           第二次世界大戦下の、北アフリカを舞台にした作品。撃墜されたイギリスの飛行機から、全身に火傷を負った男が助け出された。記憶を失っていたために英国人の患者と呼ばれることになった彼は、収容された野戦病院で看護婦ハナの介護を受け、少しずつその記憶を回想する。それは人妻との、砂漠での熱狂的な恋の物語だった。  サハラ砂漠での広大な撮影に魅せられる。見事だった。アンソニー・ミンゲラの演出に特筆すべきものは感じなかったが、俳優陣の役作りが素晴らしく、特にクリスティン・スコット・トーマスの

          『イングリッシュ・ペイシェント』戦時下の後悔と旅立ちの叙事詩

          『博士の異常な愛情 または私は如何にして心配するのを止めて水爆を愛するようになったか』最悪への飛行を見守る楽しさ

           核ミサイルを乗せて、嘘からの報復で、戦闘機は空を行く。この映画で最も熱が入るシーン。世界を滅ぼす道へ進んでいるとは知らずに。そんな皮肉があちこちに忍ばされたキューブリックの名作。  スターリング・ヘイドンのイカれちまった極右軍人がかっこいい。『現金に体を張れ』でもよかったよなー。ピーター・セラーズは一人三役で、どれも最高のキャラクタライズ。キューブリックだから、カット数は凄かったんかな?  ブラック・コメディとしてほぼトーンは一貫してるのに、リスクが最悪すぎて、ときに笑えな

          『博士の異常な愛情 または私は如何にして心配するのを止めて水爆を愛するようになったか』最悪への飛行を見守る楽しさ

          『市子』この残酷な現実のなか、彼女は本当にやり直せるのか?

           2015年8月。大阪で恋人の長谷川と慎ましくも幸せな日々を送る市子はプロポーズを受けた翌日突如失踪する。訪れた警察は市子という女性は存在しないという。長谷川が市子の行方を追う最中、市子の旧友や知人らから市子の壮絶な半生が明かされていく。  私は過去において過ちを犯し、やり直そうとしている。ただ「本当にやり直していいのだろうか?」とも思う。だが、この先を進もうとするには、現実を受け入れてやり直すしかないのだ。市子のような残酷な半生ではなかったから。彼女はもうやり直せなくなって

          『市子』この残酷な現実のなか、彼女は本当にやり直せるのか?

          『アメリカン・フィクション』リアルなトーンで綴るおふざけドラマ

           作品に「黒人らしさが足りない」と評された黒人の小説家が、半ばやけになって書いた冗談のようなステレオタイプな黒人小説がベストセラーとなり、思いがけないかたちで名声を得てしまう。  『ブレイキング・バッド』を思い浮かべてしまうけど、ラストなんてもう、、  リファレンスの話が続いてしまうが、ウディ・アレン映画の要素も大いにある。キャストは敵わないが、コード・ジェファーソンはこのデビュー作において、オスカー候補と大きく成功した。  ラストは本作の伏線を回収するどころか、本作全てをひ

          『アメリカン・フィクション』リアルなトーンで綴るおふざけドラマ

          『フィラデルフィア』偏見と差別を溶かす友情

           ジョナサン・デミの作品と身構えて観るも、『羊たちの沈黙』の鬼気迫る演出に比べると、かなりオーセンティックだ。最初は少し萎えた。だがそれは、本に合わせてのことなのだろう。今作では、俳優の表現をキャプチャーすることに、監督として奏功している。トム・ハンクスとデンゼルの表情の豊かさと魅力は、心に数多の響きをもたらした。デミはその瞬間を捕まえ、ときに引き延ばすことに成功している。  主演の2人は私の世代に活躍する名優だが、その中でも本作の演技は目を見張るものが。辛さときらめきという

          『フィラデルフィア』偏見と差別を溶かす友情

          『インターステラー』極上のSFエクスペリエンスと父娘の愛と約束の物語の理想的な邂逅

           本作は記念碑的名作『2001年宇宙の旅』とまで比較したくなるくらい、SFとしての映画体験で類を見ない域まで達している。宇宙船の操縦のスリルを存分に見せるマコノヒーの熱演、大宇宙の中での小さな宇宙船の描写、ワームホールや未知の惑星を体験する映画的快楽、三次元を超越した空間の独自の表現。全てが驚きというより、調和を感じさせるトーンで描かれている。  また今作は、父娘の愛と約束の物語でもある。マコノヒーのエモーショナルな演技は、感情が溢れ出るなか涙を禁じない。彼の長いキャリアでも

          『インターステラー』極上のSFエクスペリエンスと父娘の愛と約束の物語の理想的な邂逅

          『AIR/エア』デイモン、アフレックが体現するチーム友達

           『グッド・ウィル・ハンティング/旅立ち』から27年。まだ友達、まだ共作、まだ第一線。まだ最高級の作品を作り上げる。  1984年。業績不振のナイキのバスケットボール部門。ソニー・ヴァッカロは、ナイキCEOのフィル・ナイトから当部門の立て直しを命じられる。そんなソニーと上司のロブ・ストラッサーが目をつけたのは、後に世界的スターとなる選手マイケル・ジョーダンだった。  マット・デイモンはどの役を演じても、マット・デイモン。あの『インターステラー』の最低最悪のマンを演じても、マッ

          『AIR/エア』デイモン、アフレックが体現するチーム友達