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『政治家・官僚のための憲法改正』緊急事態条項は必要ない


はじめに.

まず、私の意見としては、"緊急事態条項は不要である"という意見を持っております。


確かに、現代のドイツ憲法のように、災害・感染症・戦争(海外から武力攻撃を受けた際)と、事態毎に、条文を設けて、

①どういう要件によって、緊急事態が発令されるか?

②そして、それが発令されたら、どのような国民の権利が制限されるか?

を明確にし、②の制限される国民の権利については、全てを箇条書きにし、完璧に明確にする事で、一応導入する事は可能だと思います。

しかし、"憲法によって、規定を設けても、結局は意味が無い"と私は結論付けております。


ですので、本noteにおいては、"本当の緊急事態においては、緊急事態条項や憲法は意味を成さない"という結論に向けて、私の思う意見を述べて行きたいと思います。


1.緊急事態条項の導入は民主主義の放棄であり、外交上デメリットしかない

中国は何故没落するのか

最近、中国経済においては、若年層の失業率が大幅に増加したり、輸出や輸入についても、それぞれ前年比で12.4%、6.8%下落したり、その失墜が止まりません。

一体何故こんな事になってしまったのかと考えますと、私が思うに、2020年の新型コロナウイルスパンデミックによって、"中国は民主的な法治国家ではない"という事が、全世界に露見したからだと考えております。

これまで、世界各国は、経済的なメリットから、各国の企業が、中国に工場を作る事を容認したり、支援を行ったりしてきましたが、2020年の新型コロナウイルスパンデミックの発生により、"法治国家で無い中国において、自国企業に商売を行わせる事はリスクがある"と、各国の政治家や官僚達は、考え始めるようになりました。

その証拠に、アメリカを始めとする各国は、IT機器に関する中国製品の輸入禁止を行ったり、各国企業のサプライチェーンから、中国の締め出す方針を決めるなど、西側先進国は、一斉に脱中国に向けた動きを次々に行っております。

勿論、新型コロナウイルスパンデミックによって、各国は、多大な被害を受けましたから、その報復的な意味合いがあったり、中国の人件費が高騰しているため、中国に工場を設置する意義が薄くなったという側面もあると思います。

しかし、中国不信の根本に存在するのが、"中国は、非民主的な独裁国家である"という各国が持つ認識である事は間違いないと思います。


酷すぎる自民党草案

そして、緊急事態条項の話に戻りますが、まずは、自民党草案の掲げる緊急事態条項の条文をご覧ください。

(緊急事態の宣言) 第九十八条 内閣総理大臣は、"我が国に対する外部からの武力攻撃、内乱等による社会秩序の混乱、地震等による大規模な自然災害その他の法律で定める緊急事態"において、特に必要があると認めるときは、法律の定めるところにより、閣議にかけて、緊急事態の宣言を発することができる。
緊急事態の宣言は、法律の定めるところにより、事前又は事後に国会の承認を得なければならない。
内閣総理大臣は、前項の場合において不承認の議決があったとき、国会が緊急事態の宣言を解除すべき旨を議決したとき、又は事態の推移により当該宣言を継続する必要がないと認めるときは、法律の定めるところにより、閣議にかけて、当該宣言を速やかに解除しなければならない。また、百日を超えて緊急事態の宣言を継続しようとするときは、百日を超えるごとに、事前に国会の承認を得なければならない。
第二項及び前項後段の国会の承認については、第六十条第二項の規定を準用する。この場合において、同項中「三十日以内」とあるのは、「五日以内」と読み替えるものとする。 (緊急事態の宣言の効果)

第九十九条 緊急事態の宣言が発せられたときは、法律の定めるところにより、内閣は法律と同一の効力を有する政令を制定することができるほか、内閣総理大臣は財政上必要な支出その他の処分を行い、地方自治体の長に対して必要な指示をすることができる。
前項の政令の制定及び処分については、法律の定めるところにより、事後に国会の承認を得なければならない。
緊急事態の宣言が発せられた場合には、"何人も、法律の定めるところにより、当該宣言に係る事態において国民の生命、身体及び財産を守るために行われる措置に関して発せられる国その他公の機関の指示に従わなければならない。"この場合においても、第十四条、第十八条、第十九条、第二十一条その他の基本的人権に関する規定は、最大限に尊重されなければならない。
緊急事態の宣言が発せられた場合においては、法律の定めるところにより、その宣言が効力を有する期間、衆議院は解散されないものとし、両議院の議員の任期及びその選挙期日の特例を設けることができる。

中身を見た感想ですが、ハッキリ言って、話にならないレベルで、酷い内容であると言わざる負えません。


簡単に、重要なポイントを2つ取り上げて、解説いたします。

まず、修正案第98条1項前文の、"我が国に対する外部からの武力攻撃、内乱等による社会秩序の混乱、地震等による大規模な自然災害その他の法律で定める緊急事態"についてです。

この文面を見るに、緊急事態はどういう場合を指すかを、法律で定めると言っています。

つまり、"首相が階段で転んだ"とか、現実的には、"国会に爆弾が仕掛けられた"とか、議会の意向によって、自由に緊急事態を定義出来てしまいます。

本記事の冒頭で、現行ドイツ憲法のように、"緊急事態はどういうものを指すか?"という事を、憲法上明確にした上で、その緊急事態毎に、条文や章を作るべきだと述べましたが、その理念に全く反していると言えます。


次に、修正案第99条3項前文の、"何人も、法律の定めるところにより、当該宣言に係る事態において国民の生命、身体及び財産を守るために行われる措置に関して発せられる国その他公の機関の指示に従わなければならない。"についてです。

これについても、冒頭で述べたように、
・移動の自由を制限できる
・政府は価格統制を実施できる
と言うように、どの権利をどのように制限するのか、明確に列挙した上で、全てを箇条書きにしてまとめるべきだと考えておりますので、その点についても、おかしいと考えております。


ナチスドイツや大日本帝国において悪用された緊急事態条項

また、自民党の改憲草案を、全体的に見ても、ヒトラーが利用したワイマール憲法48条のように、独裁者が悪用する余地がある部分が山程あります。

アドルフ・ヒトラーは、緊急事態条項を利用して、自分と敵対する政党の議員達を、逮捕状を使わずに、次々に逮捕監禁していき、自分の都合の良い法律を一方的に成立させていきました。

そして、大日本帝国の軍閥政府の指導者達も、始めは、敵対する共産主義者達を弾圧するために、緊急事態条項を活用していた訳ですが、次第に、自分達に敵対する意見を言う国民も、次々に弾圧して行った訳です。


1章まとめ.

結局、自民党草案にあるような、緊急事態条項を、憲法上に作ってしまうと、中国のように、各国際社会からの信用を失い、"法治国家ではない"と認識される事に繋がり、国交断絶海外投資の引き揚げにも直結してしまうという事です。

ましてや、第二次世界大戦を引き起こした当事者の国として、自民党草案のような良い加減な緊急事態条項草案を作って、公表する事自体、国際社会に示しが付きません。

一方、ドイツは、その点を最大限配慮した上で、国民の権利の留保を最小限とした上で、災害等に対する規定を憲法に盛り込んでおります。

だから、日本の政治家は、国際社会から馬鹿にされるんです。


中国には、確かに、憲法や法律も存在します。

ですが、"全ての実権は、中国共産党が握る"というニュアンスの条文の存在によって、実質的に憲法や法律が存在しない国と見なされている訳です。

ですから、日本においても、そうなってしまったら、国際協調を欠いたせいで、孤軍奮闘状態となり、食料や生活必需品が無くなってしまった戦前の状態に、あっという間に逆戻りする事でしょう。


2.憲法や法律は平時のためのものである

まず、何処かの国から核ミサイルが発射され、東京に着弾し、東京全土がまとめて吹き飛び、全国会議員と全官僚が一斉にこの世からいなくなった時の事を考えてみてください。

そうなったとしたら、仮に、緊急事態条項が憲法に導入されていても、"内閣総理大臣は~"なんて規定があったとしても、内閣総理大臣自体が存在しなくなるため、何の意味もありません

そして、実際にそうなったら、日本の自衛隊の残存戦力は、相手国に報復するため、戦争を開始するでしょう。

そうなってしまえば、憲法や法律は絵に描いた餅でしかなくなってしまう訳です。


3.国の最高権力者は国民である

前章で述べたような事態が起こり、全国会議員や全官僚がこの世から居なくなってしまった場合、誰が国を動かすのかと言うと、国民の皆様です。

憲法や法律が機能しなくなり、政治家や官僚の居なくなった世界においては、国民の皆様が、自治を行う事により、国家を運営していくしかありません

"国民主権"という言葉の通り、国家の中で、最終的に、最も強い権力を持つのは、国民の合意です。

結局、どの国が、どのような体制を執っていても、国民の総意には勝てません。

独裁国家においても、独裁者は、その国の国民の総意があるから、独裁し続けられるで、独裁者以外の国民が、それを認めなければ、即座に権力を取り上げられてしまうでしょう。

なので、いくら、法律上や憲法上において、"総理大臣、最高裁判所、議会に権力がある"という規定を設けた所で、国民主権の基本原則は無くならない訳です。


4.災害やテロ、武力攻撃が発生した際適用される法律は既に存在する

例えば、震災や災害時においては、災害対策基本法災害救助法等の法律が既に存在します。

次に、テロや武力攻撃事態を受けた際には、国民保護法事態対処法等、テロ対策基本法と呼ばれるものが存在します。

そして、感染症については、新型インフルエンザ対策等特別措置法が存在します。


また、現行の日本国憲法においても、全ての人権規定には、"公共の福祉に反しない限り"という留保が付いております。

つまり、現行の憲法を維持したままであっても、緊急時においては、必要最低限の人権を国民に留保して貰うような法律を作る事は可能であり、実際、上記の通り、そういう法律が出来ている訳です。

以前のnoteでも申し上げた通り、日本も、議院内閣制を採用している以上、議会主義を採用しているイギリスと、本質的には同じ理念を共有しています。

ですから、日本においても、憲法からかけ離れた事は別として、ある程度憲法に則っていれば、議会は、あらゆる事を決められる権限を持つ訳です。


以上を踏まえ、現在、各緊急事態を想定した法律が既に存在する事や、議会主義の観点から見ても、改めて、緊急事態条項を創設する必要性が全く無いと言えます。


5.非常時の対策は、各自マニュアルを持つ事が重要

本当の非常時において、最も効果を発揮するのは、国や自治体が、事前に、災害やテロ等、各緊急事態を想定したマニュアルを持ち、訓練を行う事です。

実際、東日本大震災においても、様々な法律で、防災の対策を講じていたようですが、結局、現場が訓練を怠ったり、その運用に従わなかった事が原因で、多数の犠牲者が出てしまったとされています。

ですから、憲法や法律がどうとか関係無しに、事前に、そういう緊急事態をシミュレーションし、具体的な対策案を講じる事こそが、実際の被害の拡大を防ぐ事に繋がるという事です。


まとめ.

結局、緊急時に起こる事は、想定の範囲内で済むとは限らないという事です。

ですから、憲法上に、あらゆる緊急事態を想定して、あらゆる場面に対応できるように条文を積み増したとしても、実際、それが完璧に機能するとは、限りません。

そして、その危機を乗り越えられるかどうかは、結局の所、国民一人一人の政治力や対応力に掛かっていると言えます。


そして、平時においても機能する緊急事態条項を設ける事を許してしまえば、ご存知の通り、政治家や官僚達にとって都合の良い道具になるだけでしょう。


最後に、憲法改正は、"国民の利益"のために行うべきものです。

ましてや、政治家や官僚達の利益となる憲法改正を行うなど、言語道断であり、時代逆行的な、自分勝手な草案でしかありません。


参考文献.

・憲法に緊急事態条項は必要か (岩波ブックレット)

・ナチスの「手口」と緊急事態条項 (集英社新書)


おまけ.現在のドイツ憲法の一例

ドイツ基本法 第11条 [移動の自由]
(1) すべてのドイツ人は、連邦の全領域において移動の自由を有する。
(2) この権利は、法律によってまたは法律の根拠に基づいてのみ、かつ、十分な生活の基礎がなく、そのために公衆に特別の負担が生ずる場合、連邦およびラントの存立もしくは自由で民主的な基本秩序に対するさし迫った危険を防止するために必要な場合、伝染病の危険、自然災害もしくは重大な災害事故に対処するために必要な場合、または、青少年を非行化から守り、もしくは犯罪行為を防止するために必要な場合にのみ、これを制限することができる。

ドイツ基本法 第35条 [司法共助および職務共助、災害救助]
(1) 連邦およびラントのすべての官庁は、相互に司法共助および職務共助を行う。
(2) ラントは、公共の安全または秩序の維持または回復のために、とくに重要な事件において、警察が連邦国境警備隊の支援がなければ任務を遂行できず、または著しく困難であるときは、警察の支援のために、連邦国境警備隊の力および施設を要請することができる。ラントは、自然災害またはとくに重大な災厄事故の場合に支援を受けるために、他ラントの警察力、他の行政官庁の力および施設、ならびに連邦国境警備隊および軍隊の力および施設を要請することができる。
(3) 自然災害または災厄事故が一つのラントの領域を超えて危険を及ぼすときは、連邦政府は、その有効な対処のために必要な限りで、ラント政府に対し、他ラントの警察力を使用する指示を与え、ならびに警察力を補強するために、連邦国境警備隊および軍隊の部隊を出動させることができる。1段による連邦政府の措置は、連邦参議院の要求があればいつでも、また、その他の場合も、危険の除去後速やかに解除しなければならない。



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