BRICsによる脱ドル化の野望は成就するのか?
最近、上記の記事のように、ナイジェリア等、脱ドル化を表明する国が増えております。
しかし、現実的に、そういった国々が、脱ドル化を行うためには、ドルの代替え通貨となるようなものを準備する必要があります。
そして、その代替え通貨の筆頭候補に挙げられるのが、人民元であると言えるでしょう。
ですから、本noteでは、そもそも、"何故、脱ドル化を表明する国が後を絶たないのか?"という事と、"果たして、人民元がドルの代替え通貨となる可能性はあるのか?"という事について、簡単に情報をまとめた上で考察させていただこうと思います。
1.脱ドル化の要因
要因①.アメリカによる強力な経済制裁
現在の世界経済は、基本的に、米ドルを基軸通貨としており、各国は、多国間との貿易を行う際、自国通貨を米ドルに両替してから、貿易の対価を支払うという仕組みで成り立っております。
ですから、各国は、"米ドルの使用を禁ずる"という経済制裁を受けた場合、他国との貿易が一切出来なくなってしまいます。
なので、アメリカは、そういった非常に強力な経済制裁を行う権限を唯一持っている国であり、建国以来、武力を用いない先制攻撃として、様々な国に経済制裁を行っているという背景があります。
実際に、現時点で、経済制裁を受けている国は、中国、ロシア、ベネズエラ、ミャンマー、キューバ、イラン、イラク、北朝鮮、スーダン、シリア、ジンバブエ、ベラルーシ、イエメン、 ソマリアと多岐に渡ります。
特に、2014年のクリミア併合に際して始まったロシアに対する経済制裁は、ウクライナ侵攻の最大の要因であると考えられております。
更に、5Gの覇権争いを念頭に、恣意的とも捉えられかねない制裁を中国のファーウェイに課したり、人権問題等を理由に、中国への経済制裁を強化していった結果、中国の経済成長も鈍化してしまっております。
ですから、中国やロシアを中心に、そういったアメリカの経済制裁に耐え兼ねた国々が、BRICs同盟に結集し、脱ドル化を図ろうとしている訳です。
要因②.FRBの不安定な金融政策
まず、一般的に、新興国や発展途上国等は、FRBの金融政策に影響を受けやすいとされています。
何故なら、基本的に、そういった国々は、自国通貨にそれ程の価値が無いため、海外からの資金調達に依存しなければならなず、必然的に、米ドル建ての債務を負って、米ドルを調達する必要があり、尚且つ、外貨準備高の増減によって、自国通貨の価値に影響が出やすいからです。
そして、2010年代の量的緩和の影響から、ほぼゼロ金利の状況下で、各新興国は、米ドル建ての債務を増やしてきたとされておりますが、2022年から始まったFRBの利上げによって、急激に金利が5%まで引き上げられてしまったため、資本の国外流出や、自国通貨の価値の下落に伴い、米ドル建て債務が膨れ上がる等の悪影響が生じてしまっているようです。
また、量的緩和自体も、新興国においては、深刻な物価高を生じさせるような悪影響があったとの報告もあります。
なので、そういったFRBによる不安定な金融政策も、脱ドル化を図ろうとしている国を増やしている一つの要因であると推測されます。
2.脱ドル化の潮流は止まる事はない
やはり、世界のGDPのシェアを見てみると、既に、G7の国々よりも、BRICsのGDPのシェアの方が高いという現象も起こっております。
ですから、理論的には、都合の良い米ドルの代替え通貨を用意しさえすれば、BRICsの経済圏内においては、脱ドル化を図るのは、それ程難しい事ではないと言えるでしょう。
特に、アラブ周辺の石油産出国が、次々にBRICs経済圏に加わると仮定すれば、その代替え通貨の信用を担保する事になりますので、より脱ドル化を推進する要素となり得るでしょう。
3.BRICs経済圏の新通貨は安定するのか?
まず、BRICsの新通貨が何であるにせよ、その価値を担保する物として、人民元の存在は欠かせません。
そして、そもそも、人民元を、米ドルの代替え通貨として使う事が出来れば、それが一番簡単で確実な方法である事は間違いありません。
しかし、実際の所、後述のような理由で、それは、ほぼ100%実現し得ないと考えられております。
現状、人民元が、米ドルに代わる事はほぼ100%有り得ない
まず、今の中国政府は、基本的に、全ての人民元を中国国内に置いておきたいという意向を持っています。
そして、中国の金融政策は、人民元の総量や各国内企業への人民元の配分等を、きめ細かに調整する事で成り立っているため、海外に人民元が流失してしまえば、その調整に支障を来し、中国の金融政策が破綻し、金融危機が起こる可能性があると指摘されております。
更に、中国が、人民元を海外に流通させたくない一番の理由は、固定相場制の維持したい点にあります。
何故なら、一般的に、下記のような理由から、固定相場制は、投機筋の売りを招くという弱点があるからです。
更に、それに加え、中国の場合は、人民元の価値が暴騰してしまえば、輸出大国としての地位を失う事に直結するため、中国としては、人民元が急落する事も、急騰することも、避ける必要がある訳です。
なので、中国政府が、人民元の通貨価値を完璧にコントロールするためには、"人民元を海外で流通させない"という事が、必須条件となりますので、必然的に、人民元が、世界中で利用されるような基軸通貨になり得る可能性は無いという事になります。
実際、中国と貿易を行った国が、人民元を保有し続ける事が無いように、その相手国の国内に人民元回収のための銀行を必ず設置し、余剰の人民元は即座に回収するという徹底ぶりを見せています。
ですから、現状のままでは、人民元が、米ドルのように、世界中のあちこちで利用される状況というのは、実現し得ないため、結果的に、人民元が、米ドルの代替え通貨となる可能性は低いと考えられております。
4.西側諸国とBricsの対立により、日本にどのような影響が出るのか?
やはり、最近の中東情勢等の影響も相まって、アメリカに好感を抱いていない国々が、次々にBRICsに加盟するという流れは容易に推測されます。
特に、アフリカの鉱物源産出国やアラブ周辺の産油国等は、アメリカや西側諸国に対し、好印象を抱いていないので、その可能性更に強まります。
そして、最悪の場合は、BRICsが、ブロック経済を展開するという流れも考えらえます。
5.今後の日本はどう振る舞うべきか?
やはり、今後のBRICsの動向に関わらず、世界最強の軍隊を持ち、自国通貨が基軸通貨である等、様々な強みを持つアメリカが覇権国であり続ける事は間違いないと思います。
ですが、仮に、西側諸国陣営とBRICs陣営の対立が激化した場合、日本経済に悪影響がある事は当然の事、世界経済に大きな悪影響を及ぼす事は間違いないため、日本国としては、GDP4位の経済大国としての責務を果たすという意味でも、個人的に、両陣営の対立を緩和させるような外交が必要であると思っております。
また、対立に歯止めが掛からなくなった場合においても、両陣営の一方に偏り過ぎないような、バランスの取れた中立的な立ち位置に居続ける事が、一番無難であると思っております。
6.SDR(特別引出権)について
まず、SDRとは、米ドル、ユーロ、人民元、日本円、英ポンドの5通貨の価値に裏付けされたIMFの発行する仮想通貨です。
そして、国際世論においては、一時期、"SDRを基軸通貨にしよう"と検討された事もあったそうですが、結局、基軸通貨を、米ドルからSDRに移行するメリットが見当たらなかったため、白紙になってしまったそうです。
ですから、今後、万が一、アメリカの覇権国家としての地位が揺らいだ場合の妥協案として、SDRが、新しい基軸通貨となる可能性もあるのではないかと思っております。
まとめ.
そして、"Bricsが、米ドルに代わる代替え通貨を持ち得るか?"という考察に対する私の結論としては、やはり、どのような通貨を新設したとしても、通貨としての価値を担保するためには、米ドルの裏付けが必須であり、アメリカがその通貨に関して経済制裁等、対抗措置を講じた場合は、もろに影響を受けてしまうため、現状、それが代替え通貨となるか否かも、アメリカ次第となってしまうというものです。
特に、最近では、Donald Trumpは、"脱ドル化を行う国に対しては、100%の関税を課す"と表明しており、経済制裁の現実味が帯びています。
また、アメリカには、最終手段として、軍事力の行使という切り札が残っているため、いずれにせよ、Brics経済圏においても、完全に米ドルの覇権を奪うという事は不可能に近いとでしょう。
なので、現実的な妥協案として、BRICs圏内で使用できる仮想通貨を作るという程度に収まるのではないかと思っております。
これまで、世界経済が持続的に成長し続けてきた事の要因として、アメリカが、多額の貿易赤字を許容し、他国に対して富を分配し続けてきた事が挙げられます。
その一方で、中国が、そういったアメリカの寛容さや、多額の貿易赤字を叩き出しても尚揺るがない経済力を持つようになるとは、到底考えられません。
ですから、世界経済が今後も成長し続けるためには、アメリカが覇権国であり続ける事は、重要な要素であると言えるでしょう。
ただ、最近の中東情勢において、パレスチナや周辺諸国の国民を一方的に虐殺してしまったイスラエルに加担してしまったり、次期大統領候補のDonald Trumpが、アメリカ・ファーストの政策を掲げている事もあり、国際社会が、アメリカに対して冷ややかな目を向けているというのも、事実です。
それに加え、前述の通り、BRICsに加盟するような新興国のGDPが拡大し、それに伴い、その影響力も、直に拡大していく事は間違いありません。
ですので、これまでのアメリカ一辺倒の外交では足らず、今後は、一筋縄ではいかないような臨機応変さが求められる外交が必要とされる事でしょう。
最後に、私の個人的な意見として、長期的には、世界の全ての国は、協力し、協調し合うべきであると考えております。
何故なら、地球温暖化の問題や化石燃料の枯渇等、人類全体の課題が山積しており、全人類が協調出来なければ、人類全体が滅んでしまう可能性も十分にあると考えているからです。
ですから、今後の日本国首脳には、人類全体に資するような良い競争を促進させ、悪い競争を阻むような外交を期待したいと思っております。
本記事は以上となります。
長らくご覧いただき、ありがとうございました。
参考文献.
・米中通貨戦争――「ドル覇権国」が勝つのか、「モノ供給大国」が勝つのか (扶桑社BOOKS)
・アメリカの制裁外交 (岩波新書)
・Currency Wars: The Making of the Next Global Crisis (English Edition)
・通貨で読み解く世界経済 ドル、ユーロ、人民元、そして円 (中公新書)
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