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#翻訳小説
<dismal flats>は「見すぼらしい家屋」ではなく「海岸沿いの湿地」
チャンドラー『湖中の女』を訳す 第二十六章【訳文】
監房棟はほとんど新品同様だった。軍艦の灰色に塗られた鋼鉄の壁や扉は、二、三ヵ所、噛み煙草の唾を吐かれて外観を損ねていたが、まだ塗りたての鮮やかな光沢を保っていた。頭上の照明は天井に埋め込まれ、厚い摺り硝子のパネルが嵌っていた。監房の片側に二段ベッドがあり、上段には濃い灰色の毛布を巻きつけた男がいびきをかいていた。こんなに早くから眠りこんで、ウ
<play one's cards right>は「うまく立ち回りさえすれば」
チャンドラー『湖中の女』を訳す 第二十四章【訳文】
ウェストモア・ストリートの家は、大きな家の後ろにある小さな木造の平屋だった。小さい方の家に番号表示はなかったが、手前の家のドアの横にステンシルで1618と型抜きがされ、裏に薄明かりが点っていた。コンクリートの狭い小径が窓の下を通って奥の家まで続いている。小さなポーチの上には一人掛けの椅子がひとつ置いてあった。私はポーチに上がり、呼鈴を鳴らした
<thumb in one's eye>は「悩み(頭痛)の種」
チャンドラー『湖中の女』を訳す 第十九章
彼女はハンカチに目を止め、私を見て、鉛筆を手に取り、端に付いている消しゴムで小さな麻の布をいじった。
「何がついてるの?」彼女は訊いた。「蠅捕りスプレー?」
「サンダルウッドの一種、だと思う」
「安っぽい合成品。胸が悪くなる、と言っても言い足りない。ミスタ・マーロウ、どうしてこのハンカチを私に見せたかったの?」彼女はもう一度椅子の背にもたれ、平然とし
<touch>は、「殺し」の合言葉
チャンドラー『湖中の女を訳す』第十八章(2)【訳文】
彼女は少しばかり考えていた。途中で一度ちらっと私の方を見て、また目をそらした。
「ミセス・アルモアに会ったのは二度だけ」彼女はゆっくり言った。「でも、あなたの質問には答えられると思う――すべてね。最後に会ったのは、さっきも言ったように、レイヴァリーの家、かなり大勢の人がいたわ。しこたまお酒を飲んで、大きな声で話をしていた。女たちは夫連れでな
香水についても詳しくないと、私立探偵はつとまらない。
チャンドラー『湖中の女を訳す』第十七章(2)【訳文】
「ろくでなしめ」彼は声を低くした。「あいつはあれを見限ったんだろう」
「そいつはどうかな」私は言った。「あなたにとっては動機が不充分だったんじゃ、文明人だからという理由でね。でも、彼女にとってはそれが充分な動機になるんですか」
「同じ動機という訳じゃない」彼は噛みつくように言った。「それに、女は男より衝動的だ」
「猫が犬より衝動的なのと同じよ