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連載小説「まん・まる」 第四章 話して、和して、輪にして、そして。3

 体育祭の日のできごともあったが、谷っぺとは特に何もなければ放課後一緒に帰っている。話をして楽しくて話題が尽きない。学校のこと、お互いの読書のこと、友達の話……。
 下校時のそんなあるとき、生物の実習のときのヒメダカくん受難と蘇生の物語を僕は谷っぺに詳しく話した。〈ヒメダカくんが生き返ってよかったね〉と涙ぐみながら喜んでくれた。やさしいな、谷っぺ。ちなみに、谷っぺの班のヒメダカくんは強くて何事もなく、ピンピンしていたそうだ。

 実は、今月は僕の誕生月だ。谷っぺとは付き合いだして早々にそれぞれの誕生日を教え合っていた。
 付き合ってまだひと月で、お互いのことを深く知るのもこれからだ。それはそれで楽しみな部分もある。あせりはきんもつだ。
 しっかりとお互いを知るためになんでも聞く。隠し事はしない。好きは好きと言う。嫌は嫌と言う。僕たちはそう決めた。

 僕の誕生日、谷っぺからマフラー🧣を贈って(※1)もらった。手編みだ。嬉しかった。まだ季節には少し早いが、これをする日がとても楽しみだ。
 少ない日にちの間に、よく編んでくれたものだ。彼女のことを愛しく思う気持ちがわいてきた。

「岡っち、誕生日おめでとう!これ、私からのプレゼント!」と谷っぺが袋を僕に渡して言った。
「何かなぁ、開けてもええ?」と僕は聞いた。
袋を開けたらマフラーだった。
「岡っち、気に入ってくれた?」と僕の顔をのぞきこむように谷っぺが真剣そうに聞く。
 僕は舞い上がりそうになっていたのでわざと面白いトーンで答えた。「アッと驚くためゴロー。僕、潤一」
 とたんに、谷っぺからしっぺをもらった。「もう、岡っち、ふざけた言い方はやめて!」
 あわててあやまった。「ごめん。まじめに言うよ。気に入った。ものすご嬉しい。あったかそうや」
「うん、ええよ。よかった。気に入ってくれて」谷っぺが言ってくれた。

 僕らは、いつものように手をつないで仲良く帰った。僕は今年の冬は、いつもの年よりとても暖かいだろうなと思いながら。
 空には、うろこ雲(※2)が気持ちよさそうに浮かんでいる。それを谷っぺとふたり見て、顔を見合わせてなんと言うわけもなく笑いあった。

 谷っぺは、遊園地が好きだ。僕も、嫌いではない。なんてかっこつけるけど実は大好きだ。谷っぺの笑顔がたくさん見られるからだ。
 デートで今まで行ったのは、宝塚ファミリーランド(※3)、ひらかたパーク(※4)、みさき公園(※5)などだ。

 家族連れやぼくらみたいなアベックやらで、どこもにぎやかで混んでいた。谷っぺが作ってくる弁当やサンドウィッチに、舌づつみを打つ。ジェットコースタ―が谷っぺは大好きで、僕は苦手だ。割とビビりで、谷っぺにからかわれる。僕が好きなのは……芝生があったら寝転んだり、時には谷っぺのひざまくらでうっとり夢見たりすることだ。最高!

 二人で、生駒山上遊園(※6)に行ったとき、気持ちがいいので芝生の上で「大」の字に寝転んであおい空を見た。谷っぺが、バッグを僕の左肩の先において写真を撮った。「犬」という文字だそうだ。僕の犬好きなことを分かってくれてうれしかった。今は飼っていないがワンちゃんは今までに何匹か家にいたのを思い出す。

 そう云えば、近所の知り合いの家で、秋田犬に子供が生まれたとき1匹譲ってもらったことを思い出した。雑種の先輩犬がいたので2頭飼いだった。あるとき犬のこわい伝染病、ジステンパーが流行った。まだ幼犬だった秋田犬はあっけなく天国へ召されたが、先輩犬のほうはピンピンしていた。誰だ、逆の方がよかったなんて言ったのは。天は犬の上に犬をつくらず!

 家には、猫もいたが、きらいではないが、正直あまり好きとは言えなかった。犬の方は、僕が学校から帰るとちぎれそうなほどしっぽを振って喜んでくれた。猫は、全然そうじゃなかった。そんなこともあって猫には関心が向かなかった。猫の良さがわかるとしたら、たぶんもっとずっと後、大人になって、さらに中年を過ぎたときぐらいだろう。

――つづく――

※1.彼氏への手作りのプレゼントと言えば、手編みマフラーというのが昔から定番と言えるほど、手作りプレゼントの中では断トツに多いと思われます。大好きな彼女から手作りのプレゼントを貰うというのは、大抵の男にとっては嬉しいものです。なぜならば、気持ちがダイレクトに伝わるからです。(とっておき☆プレゼント)

※2.うろこ雲、さば雲、いわし雲は、いずれも高度5000~1万5000キロ程度にできる「巻積雲(けんせきうん)」の俗称で、小さなかたまりがたくさん集まっています。ひつじ雲は、高度2000~7000キロ程度にできる「高積雲(こうせきうん)」の俗称です。……うろこ雲、さば雲、いわし雲、ひつじ雲を明確に区別する定義はないため、どれも間違いではありませんが、しいていえば見た目の様子で区別することができます。(All About 暮らし)

※3.宝塚ファミリーランド(たからづかファミリーランド)阪急電鉄が経営していた遊園地で、阪急宝塚本線および阪急今津線の終点である宝塚駅の東側にあった。駅から続く「花のみち」の南側に宝塚歌劇で有名な「宝塚大劇場」と、大浴場を備えた「宝塚大温泉」があり、北側に動植物園と遊園地があった。

※4.ひらかたパークは、大阪府枚方市枚方公園町にある、京阪電気鉄道の子会社、京阪レジャーサービスが運営する遊園地(テーマパーク)。通称は「ひらパー」。現存する遊園地では日本最古である。京阪本線の枚方公園駅前に位置している。年間の入園者数は130万人前後。

※5.みさき公園(みさきこうえん)は、大阪府泉南郡岬町にある都市公園で、南海電気鉄道(南海)が創業70周年記念事業として1957年4月1日に開業。2020年3月31日まで、日本動物園水族館協会加盟の施設として、遊園地・動物園・水族館などを運営していた。

※6.生駒山上遊園地(いこまさんじょうゆうえんち)は、奈良県生駒市の生駒山の山上にある遊園地である。近鉄の子会社である近鉄レジャーサービスが所有・運営する。開園70周年にあたる1999年(平成11年)以降、「スカイランドいこま」という愛称を併用していた時期があった。


※さいとう りょうた /「ことば」をつむぐ さんの画像をお借りしました。

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