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読書びより

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2023年3月の記事一覧

『人間の建設』No.31 美的感動について №1〈芥川龍之介〉

 ここで岡さんは芥川龍之介の呼ぶ詩とは何かについて、「直観と情熱」と説明します。  直観と情熱、どこかで聞いたと思いましたら、この対談の最初の方「国を象徴する酒」の節で見ました。すこしふりかえってみましょう。  岡さんは、文学や芸術にも深い興味と造詣をもっているようで、この方面で小林さんの批評というなりわいにつながるものがあります。  また、自身も随筆も多くものしました。小林さんがその中の『春宵十話』を批評した縁でこうした対談が実現したのですね。  その小林さんに対し

『人間の建設』No.30 アインシュタインという人間 №3

 この段落を読んで思い出したのが、例のニュートンとリンゴの話です。 「なぜ、リンゴは木から落ちるのか」という疑問から万有引力の法則が発見されたという逸話ですが、文書記録や物証があるわけでなく、あくまでも伝聞が流布した話であり、真偽は不明なようです。  実際には、当時知られていた、ガリレオの「落下の法則」と、天体の運動に関する「ケプラーの法則」の二つを結び付けて、昇華したというのが真相のようです。(人類最大の謎!宇宙・深海・脳の世界)  それはともかく、リンゴの逸話はおも

『人間の建設』No.28 アインシュタインという人間 №1

 そして、小林さんは「そちらの方は本物らしい、と感じて、それから少し勉強しようと思ったのです。そのころ通俗解説書というものがむやみと出ましたでしょう」とつづけます。  対して岡さんが、「驚くほど出ましたね」と応えたからには、相当出たのでしょう。この後ふたりの会話は、解説書の意義に向きます。これに関してはふたりとも否定的です。  まあ、世の中の解説全てが、おふたりの言うようなことではないにしても、かなり断定的な話しぶりに思われます。  小林さんのような碩学にして解説書では

『人間の建設』No.29 アインシュタインという人間 №2

 小林さんから見て、物理学者と数学者は近いものだと思うのでしょう。不肖わたしなどもおなじイメージをいだいています。  ところが、岡さんによれば両者には意外にもタイプのちがいが明確にあるというのですね。私のたとえがわるいかもしれませんが、物理学者は一発屋の派手好み。数学者はコツコツ歩む地味なやつ。  小林さんは、この対談のはじめのころから、自然科学の泰斗アインシュタインを正面に据えて、自然科学に通底する諸問題について、岡さんの考えを知ろうとしていろいろな質問をしたり意見をぶ

『人間の建設』No.27 破壊だけの自然科学 №3

 前段までに岡さんは、理論物理学がしていることは、破壊とか機械操作であり、建設ということを何もしていない、と述べました。  では、そのやり損ないや間違った方向を改めて、建設に向かって何をどう進めていくのかが問題になります。  どう進めていくかに関しては、ここまでの対談の中で岡さんが示唆されてきたと思います。  知性偏重の態度を改めて、まず「意義を良く考え、それが指示する通りにする」。個我の満足ではなく、携わる者皆の心が納得する方法、知情意のバランスを図って進めるというこ

『人間の建設』No.26 破壊だけの自然科学 №2

 前段で、岡さんはアインシュタインが光の存在を否定したことを前提に「現在の物理学は数学者が数学的に批判すれば、物理学ではない」としました。観念的公理体系、哲学的公理体系というものにかわってしまったから。  さらに岡さんは、理論物理学がしていることは、破壊とか機械操作であり、建設ということを何もしていない、とつづけます。  機械操作というのはこのあと岡さんの話で出てくるのですが、自動車や汽船や電車の発明のようなことです。ここでも、破壊か機械操作しかしていないと、現代物理学を

『人間の建設』No.23 人間と人生への無知 №3

 科学者や哲学者や文学者が、人間とはなにかとか、時間とはなにかを、実験やら思索やら創作やらでときあかそうとしていると思います。  われわれ一般人も、自分や周りのひとのことで悩んだり、答えを見つけたいと思ったり、自分さがしやらで旅にでたり、なにやらといろいろしています。  でも、だれもが納得するような答えはでていません。  悩んで答えが出なくてしんどくなるよりは、すっぱり割りきって「自分はない」「人生ひまつぶし」といった、みうらじゅんさん流の考えに惹かれたりもします。

『人間の建設』No.25 破壊だけの自然科学 №1

 小林さんが、物理学者の考えていること表現したいことを、数学者が代わってやることの可能性を岡さんに聞きます。  岡さんはまず、アインシュタインの成果について、それが物理学に与えた影響を述べていきます。  光が、それまで物理学者が考えていたようなもの、つまり直線的に進んだり、無限の速度を有するものではなかったことがわかりました。  アインシュタインは「在来の光というものを否定した」。この意味を岡さんはこう説明します「物理の公理体系が残っても、実験的には確かめることのできな

『人間の建設』No.24 人間と人生への無知 №4

 アウグスチヌスは「古代ローマのキリスト教会の教父。356年~430年。中世の神学体系や近世の主観主義の源となった」(同書「注解」より)。  当初、マニ教の信者であったのがのちにキリスト教に回心したのだとか。自伝「コンフェッション」は、現今の出版やWEBなどでは『告白』と呼ばれています。  さて、前段で時というものが不思議なものであり、それが生きるということと深い関連がある、強いて分類すれば時間は情緒に近い、と岡さんが述べました。  それをうけて、小林さんがアウグスチヌ