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『人間の建設』No.28 アインシュタインという人間 №1
岡 さすがに小林さんは理論物理学も相当に御研究なさっている。
小林 とんでもないことです。私は若いころにそういうことを考えたことがあるのです。(※1)アインシュタインが日本に来たことがありますね。あのころたいへんはやったわけです。……
それから暫く経って、ぼくは感じたのです。(※2)新式の唯物論哲学などというものは寝言かもしれないが、科学の世界では、何とも言いようのないような物質理論上の変化が起こっているらしい。……
そして、小林さんは「そちらの方は本物らしい、と感じて、それから少し勉強しようと思ったのです。そのころ通俗解説書というものがむやみと出ましたでしょう」とつづけます。
対して岡さんが、「驚くほど出ましたね」と応えたからには、相当出たのでしょう。この後ふたりの会話は、解説書の意義に向きます。これに関してはふたりとも否定的です。
小林 解説というものはだめですね。私は発明者本人たちの書いた文章ばかり読むことにしました。
岡 どうして解説書という妙なものが書けるか不思議なくらいです。
小林 自分でやった人がやさしく書こうとしたのと、人のことをやさしく書こうとするのとでは、こんなにも違うものかということが私には分かったのです。
まあ、世の中の解説全てが、おふたりの言うようなことではないにしても、かなり断定的な話しぶりに思われます。
小林さんのような碩学にして解説書ではらちが明かないというなら、解説書を読んでいっぱしわかったような顔をしている私など凡人は、解説書のいい「カモ」なのかもしれません。それに気づいていないのがいっそ哀しい。
気を取り直して、おふたりの会話をつづけて読んでいきましょう。
――つづく――
※1 「アインシュタインが日本に… 大正11年(1922)11月17日から12月29日まで滞在した」(注解より)
※2 「新式の唯物論哲学 マルクス主義の弁証法的唯物論のこと……」(注解より)
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※mitsuki sora さんの画像をお借りしました。
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