寧静 ねいせい

海に漕ぎだせば
さっきまでの出来事が無かったことのように
体内の言葉が消えていった

ひとつ漕いでひとつ棄て
ひとつ進むとひとつ軽くなって
海原を漕いで漕いで漕いで
言葉をポイポイ棄てていった
出発した大友海岸が遠く朧げになるところまで漕いでいくと
すっかり言葉はからっぽになった

漕ぐのを止め
波の音と太陽の熱に包まれて
ゆらりと浮かんでいると眠くなってきた
ほっとしたのだ
海原には誰も居ない私だけの時間があった

目を閉じると
瞼の裏に地図が浮かび上がった
私が浮いているのは玄海灘だ
韓国が近い
このまま釜山に漂着できたら面白いなと
新しい言葉が湧いてきた

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下記リンクより審査員の信濃八太郎氏のコメントをお読みいただけます。

https://goetheweb.jp/lifestyle/art/20210129-tabisurunihongo



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