アーティゾン美術館ABSTRACTION [現代の作家たち]【後編】
8月20日まで開催の、ABSTRACTION 抽象絵画の覚醒と展開 セザンヌ、フォーヴィスム、キュビスムから現代へ、の後編。
こちらの、つづき。
横溝美由紀
点と線が織りなす、どこか法則が感じられる世界。
この作品の場合、きっちりと引かれた縦横の線からなる表面は、ときどき絵の具の塊が浮き出て、まるで毛織物のような質感だ。
この作品では、「1本の線」を描いている。
どのようにして引いたのだろう? という疑問と好奇心は、「油彩を含ませた糸をカンヴァスの画面で弾く」という説明で「なるほど」となる。そして、その制作風景を想像してしまう。
解説によれば、下の立体作品たちは過去の作品ということになる。一見、何の関係もないように見えながら、ディテールを鑑賞していくと、作品の中に、過去作から現代につながる線が見えてくるようで、興味深かった。
婁正綱(ろうせいこう)
躍動感のある、モノクロの世界。
水墨画のような油絵? という印象を持ちつつ解説を読んで、作家が書画を長年手掛け、作家のなかでは書と画が一体であると知った。いつのまにか分かれてしまったけれど、たしかに、書と画は一体なのだ。
そして、おそらく作風から、作家を男性と決めつけてけれど、それはわたしのジェンダーバイアスだったのだなと気づいた。
黒地に白、白地に黒、のこの2作は広いスペースに対になって展示され、鑑賞者は作品たちが対話をしているその間を移動しながら鑑賞する。
対称的な2作品は、大荒れの海と凪のようにも、勢いのある入道雲と日の出陽の入りの静かな空のようにも見える。2作で1作品となり、作品世界がその空間をぐるぐると巡っているように感じられた。
髙畠依子
婁正綱の展示スペースの外には、白い2作の作品が、その門を飾るように展示されていた。
絵画のような立体作品? と捉えていたのだけど、「抽象的平面作品」。制作のプロセスを読んで、結果として鑑賞しているこの作品は、作家が一時的に自分の手を放して自然に委ねて制作されたことを知る。それを手放し、もう一度それを受け取ったときの感じ、を想像する。
快適な展示環境の下で
膨大なこの企画展を、集中力を切らさずに鑑賞しきれたのは、この美術館によるところが大きいと思う。
いくら企画が素晴らしくても、途中で疲れ切って息切れしてしまうことがあるのは、その空間、空調、余裕を持った展示スペース、照明、といった、鑑賞の環境によるところが大きい。
アーティゾン美術館からは、収蔵・展示作品へのリスペクトはもちろん、鑑賞者に対する配慮が随所にある。そこに、現在まで受け継がれている、創設者の想いを感じる。
これほどに整った環境で、上質な企画展を鑑賞できるのは本当に素敵なことだ。
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