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アートとは感じるもの,という言葉の意味 -Materiality and Language: Explorations in Form and Meaning Curated by Esthella Provas

 7月某日、KOTARO NUKAGA(表参道)。

KOTARO NUKAGA(六本木)では、6月8日(土)から7月31日(水)まで5名の国際的なアーティストによる物質性と言語をテーマとしたグループ展「Materiality and Language : Explorations in Form and Meaning Curated by Esthella Provas」を開催いたします。本展は、世界で最も影響力のある美術アドバイザーの 1 人と称され、メキシコシティにあるラテンアメリカ最大の現代美術コレクションであるジュメックス美術館の創設において極めて重要な役割を果たしたことでも知られるエステラ・プロバスによってキュレーションされます。

【開催概要】
「Materiality and Language: Explorations in Form and Meaning Curated by Esthella Provas」

アーティスト:
アマドゥール
ステファン・ブルッケマン
ホセ・ダヴィラ
マイケル・リキオ・ミング・ヒー・ホー
リクリット・ティラヴァーニャ

キュレーター:
エステラ・プロバス

同上


ステファン・ブルッゲマン

 ステファン・ブルッゲマンの出典作品2作のうち1っ作品は、このようにギャラリー入口に展示され、外からガラス越しに鑑賞する。

 ふと何かが気になって、目を凝らせば、

 中央に、こんな文字が刻まれていた。

 ギャラリー内のこの作品にも、

 いろいろな意味に解せそうなメッセージが刻まれている。

 母語と遠い言語だからこそ、そして短いからこそ、その意味は漫然としていて気になる。アートとしての美しさのなかに、何かひっかき傷のようなものを感じて、とても気になった。

ステファン・ブルッゲマンは、テキストと言語を物質的な要素として探求することで、私たちの空間とコミュニケーションに対する認識を揺るがします。彼の金箔やスプレーペイントを用いた作品は、デジタル時代に溢れる情報の嵐にしばしば真正面から向き合い、それを映し出しています。そして、言葉が持つ政治性や、真実と誤情報、メディアが大衆の認識に与える影響の背後にある複雑な問題について、再考を促すのです。ブルッゲマンは、金箔を施したキャンバスに様々なメディアの見出しをスプレーペイントで描くことで、社会の物語を形作るうえでの現実と虚構の相互作用を際立たせています。

金箔を施したキャンバスにメディアの見出しを描くことは、物質性という概念に社会政治的なメッセージを加えます。彼の作品は、とりわけ真実と誤情報をめぐる今日的な状況において、素材、メッセージ、媒体の間の複雑な関係性を探っているのです。

同上


リクリット・ティラヴァーニャ

 おぼろげな記憶から、もしかしてカレーの人?と思って調べたら、そうだった。

1990年代より世界各国の美術館やギャラリーでタイカレーやパッタイをふるまうパフォーマンスを行ったり、新聞、Tシャツといった日常的な素材を作品に取り入れたり、アートを媒介に鑑賞者とのコミュニケーションを促す関係性の美学を確立した。

同上、抜粋

 今回は、新聞を使った作品だ。

リクリット・ティラヴァーニャは、美術の伝統的な素材と現代的な素材、時には工業的な素材を組み合わせる手法をしばしば用います。この融合の手法は、古典芸術と現代アートの境界を曖昧にするだけでなく、現代社会の複雑で多層的な性質をも映し出します。ティラヴァーニャの新聞を使った絵画は、私たちを取り巻く物質世界―それは外的な力によって絶え間なく変化し、形作られていく―がいかになり、集団的・個人的な経験に影響し、それによって影響されるかという探求への媒体となります。

ティラヴァーニャが新聞を作品に用いることで、物質性をめぐる議論は、情報の領域とその一過性にまで広がります。新聞のような儚い素材が、情報化時代の精神をいかに捉えているかを浮き彫りにしているのです。彼が新聞を作品に組み込むのは、素材を新たな文脈に位置付けるだけではありません。私たちの現実認識を形作る上でメディアと情報が果たす役割について、考えを巡らせる機会を鑑賞者に提供しています。

同上

ホセ・ダヴィラ

 ギャラリー内に所在なさげに設置されている本作は、しかし圧倒的な存在感があった。

ホセ・ダヴィラの物質性へのアプローチには、バランスと緊張のせめぎ合いがしばしば含まれ、今日の社会・政治情勢が持つ不安定さを映し出します。作品を通して、儚いものと永続するものの性質を問いかけることで、自然界と産業界を連想させるテーマに頻繁に取り組んでいます。

ダヴィラは点や線、面といった基本的な要素を用いることで、空間認識を作品に取り入れ、安定性や永続性といった概念に疑問を投げかける構造物を生み出します。彫刻作品においては、石やセラミック、ガラス、金属、コンクリートなどの素材が不安定な均衡を保ちながら用いられ、調和と無秩序、脆さと抵抗の間に生まれる緊張関係を探求しているのです。

同上

 言語を待たずして、「緊張関係とは、こういうこと」ということがストレートに伝わってくる。作家名で検索したら、その作品たちは、ありとあらゆる不安定と緊張感に満ちた、ドキドキしてくるものばかりだった。


マイケル・リキオ・ミング・ヒー・ホー

ホーはよく象徴的なイメージと太字のテキストを組み合わせます。個々の言葉は挑発的だったり対立的だったりしますが、一緒に組み合わされることで、曖昧で複雑な意味合いを帯びてくるのです。このユニークな融合が、不条理で滑稽味のある社会風刺の形式を生み出し、鑑賞者にそれぞれの解釈を持つよう促します。

作品にだまし絵のような支持体や錯視の手法を用いることで、従来の空間的な語りは覆され、展示空間そのものの物質性と、鑑賞者自身の身体性の感覚を再考するきっかけが生まれます。ホーは、テキストやイメージを、スプレーペイント、透明ジェッソ、インクジェットプリンターのインク、ペンキ、樹脂などの物理的な素材と組み合わせ、異なる表現媒体や物理的な錯覚を用いることで、複雑な社会的・文化的ストーリーをどのように伝えられるかを探求し、物質性という概念を浮き彫りにしているのです。鑑賞者による関わりと解釈を重視するホーの芸術は、この展覧会のコンセプトと共鳴します。現代社会に対する私たちの認識ややりとりによって、アートにおける物質性がどのように形作られ、また物質性を形作っているかを探求するのです。

同上

アマドゥール

アマドゥールは、金箔を施したハードエッジの絵画を制作することで絵具とキャンバスの物質性と、音と空間の非物質性が交錯する共感覚的な視点を「物質性と言語」という主題に持ち込みます。その絵画は物質性を感覚的な次元へと拡張していきます。金箔は、カリフォルニアの太陽を象徴すると同時に、発展の手段として金を利用してきたアメリカ西部の長い歴史を反映しています。アマドールの作品は、古典的な建築物や周囲の風景に広がる音の振動や光の照射を、様々な線のストロークを通して表現しているのです。

同上

言語を超えて伝わってくること

 小さな展覧会だ。書いてある言葉の意味もちゃんと受け取っているかはわからない。

 でも、どういうわけか、すごくいいと感じた。出品している作家たちの作品が、それぞれに力があった。さらにはキュレーターの手による相乗効果で、作品たちが響きあい、よりクリアにストーリーやメッセージを感じさせるものになっているのだろう。

 それらは、感じることはかろうじてできても、わたしには言葉による再現はできない。

 だからせめて写真をここにのこしておきたいと思う。



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