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風は先人の想いをそっと運んでくる

開け放した窓から
カーテンを揺らしながら
そよそよと
蒼い風が入ってきて
優しく頬を撫でた

窓辺のクロッカスが
愛らしい黄色の花を咲かせている


クロッカスは
器用な花だ
球根を土に植えても
水に浮かべても
根を張って花を咲かせる

そう教えてくれたのは父だった

それを聞いたとき

私は
そんなに器用には生きられない
自分に合わない場所にいると
息が詰まってしまう

そんな風に感じた

庭のカタクリが
うつ向くように
ひっそり華麗な花を咲かせている
儚げで控えめな花だ

森の妖精

そんな呼び名があるのも頷ける

その反面
花を咲かせるまで
九年もの歳月を要する
忍耐強い花だと教えてくれたのは
誰だっただろう

それは
母のような生き方だと思う
母は田舎の片隅で
ひっそり亡くなった父と
寄り添うように生きてきた

家族のために

それが母の暮らしのすべてだった

私はそんな風には生きられないし
そんな生き方は望まない

ほろ苦さが心をかすめる

それで十分幸せだったよ
そんな柔らかな声が
聞こえた気がした

カタクリの淡い紫の花は
母の面影をつれて
語りかけてくる


ちゅぴちゅぴ

囀りが聞こえる
ツバメが1羽飛んできた

今年も
我が家の軒下に
巣を作るのだろう
人に
身を寄せるようにして生きる鳥

何故か
人工物にだけ巣を作るんだよ
ある理科の教師の
言葉を思い出す

ツバメは
いにしえから
益鳥として
人との関係を築いてきたのだ

そよそよ
ふわりとカーテンを揺らす風

私は私の歴史を今紡いでいる
その営みは
後世に何かを残すのだろうか

先人たちの知恵は
私の暮らしの中で
息づいている


先人の想ひをのせて春の風

今日といふ日も未来に繋ぐ



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