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 『もうよくないですか?』幸子と文子


♪~       音楽のあと  詩の朗読がはじまる


もう よくないですか?

   今日は 誕生日
  しかも わたしにとってカンガイ深い年齢なのです

 だから もうよくないですか?
 もう メイクしなくてよくないですか?
   髪の毛のハネをなおさなくてよくないですか?
   ごはんを毎日つくらなくてよくないですか?
   家族のことを心配しなくてよくないですか?
みんなにニコニコしなくてよくないですか?

  ほんとうはもう したくないです
  ほんとうはもう 風呂もめんどうくさい
          ボーっとしていたい
          だれにもめいわくをかけたくない
          ミライのことをかんがえたくない
          ひとりでいたい

   でも  ほんとうは だれかの特別なひとになって 
                  しあわせになりたいでのす


~♪~ 数秒のしっとりとした間 ~



 妹・文子(40歳):ねえお姉さん、なによこれ、古臭い柄のノートに…ポエム?こころなしか読んでいる間、お姉さんが思い入れたっぷりに朗読する声が聞こえちゃったワ。あと、内容、薄っすーーーい!!!

 姉・幸子(45歳):あら、文ちゃん見つけちゃった?ノートの柄、昭和レトロっていって今、若い人には人気なんだから。

 文子:そりゃ、これ見よがしにリビングのテーブルに置いてあったんですもの。黄ばんだモノホン昭和柄ノートの件はまあいいわよ。でもこれ、何がしたくて書いたの?

 幸子:うん…コホン…じ、じつはね。ネットでこういう作品を発表できるサイトに投稿しようと思って。わたし、創作活動にいそしむことにしたのよ。

 文子:へー!更年期対策?ボケ防止?わたしたち、本当に心配になるくらい平穏に二人で身を寄せ合って生活しているから、刺激が欲しかったの?

 幸子:文ちゃん、落ち着いて。まあ…まあね。お互いこんな年齢で、年齢イコール彼氏いない歴の女だし、ずっと実家暮らし。両親がいなくなってからもそれぞれ仕事をしながら結婚詐欺的なものをすり抜けて、コツコツ地道に生きてきた。だからお金の心配も老後の心配もなさそうだけれど、…たしかに…だから刺激が欲しかったって、言われてみればそうだったのかもしれない。衝動的に投稿してしまったのだけれども。

 文子:お姉さんお姉さん…。投稿前のメモという雰囲気をだしていたくせに、実際はこのポエムはすでにサイトに投稿してしまっているということかしら…?…と、ところで年齢イコールほぼずっとノーメークでもあるお姉さんが、いったい誰に向けて様々な女子の努力を「もうよくないですか?」ってうったえていらっしゃるの?

 幸子:文ちゃん、気を遣うと敬語がひどいわよ。敬語がははなだしいわよ。…文ちゃん、わたしこう見えて20代の頃、ときおり超高額なエステを自分へのご褒美にしていたの。デパート内にある高級コスメを使ったサロンとか。
 
 文子:知ってるわ。わたしも、まま密かに何度かやったことあるし。

 幸子:でもね、あの頃よりお金があるのに、今はなぜだか、ぜんぜんやりたくないのよ。文ちゃんはしらないけど、わたしは、ね。

 文子:当然、同感よ。

 幸子:同年代で美しい人はテレビなどでたくさんみてるわ。でもどれだけお金をかけても私のポテンシャルでは無駄だと20代のエステで体験済み。

 文子:お姉さんはエステやこのポエムにある笑顔や気遣いの努力を、男性からモテたいためにやっていたということ?

 幸子:…いえ。実のところ、そういう目的だったらどんなに良かったかしらと思っているの。

 文子:わたしも…なんとなくお姉さんの言いたいことがわかってきたわ。

 幸子:そう。若くてお金もないながら、社会人で仕事以外に情熱を注ぐのは自分みがき。しかも、結婚の有無に関係なく、噂によると、30代から肌はグッと衰えてゆくという呪いのようなテレビや雑誌などによる情報数々。

 文子:30代前に、とにかく何かしらあらがわなければという義務感ってことね。わたしはお姉さんが5年先輩だから、お姉さんが10歳の時によくここまで成長したと祝われ、20歳になって華々しく成人の振袖を着て…ずっと先んじされて、うらやましかった。でも、呪わしの30歳になったとき、25歳のわたしは、心の底から黒い黒いヘドロのようなものがこみあげて、「やーいやーい、ざまあみろ、30だって!しかも結婚してねえし!うっわー。ヤバい!」って小躍りして嘲笑したの。このことは何度も謝ってるけど、あらためてごめんなさいね。

 幸子:……い、いいえ。

 文子:もちのロン…つまり、自然の摂理で5年後に自分も30歳になった。その時、過去ミライ現在の自分のことを考えて、お姉さんに正式に土下座して謝ったわよね。

 幸子:そうそう。いきなり文ちゃんの誕生日で、文ちゃんがわたしに土下座したからびっくりしちゃったわあ。何はともあれ、わたしが受けた感覚を、違う世代の方にも共感されるだろうか…そう思って、手始めに投稿したというわけ。

 文子:ちがう世代に共通することがあるのかを純粋に知りたかったってことね。お姉さん。これからもこうしたポエムと投稿するの?

 幸子:できたら、ね。ポエムって情報量が少ないじゃない?すると、人間ってのは想像力をたくましく、しかも自分とかさねあわせて世界を広げてゆくらしいのよ。わたしみたいな人間のダメダメなポエムでも、それこそ10代20代の若いひと、男女問わず、情動いただき、今後つながれるかもしれないじゃない?それぞれ年代や立場や状況が違っても、突き詰めると悩みが一致する…みたいなね。

 文子:お姉さん、ほんとうは全然そんな深く考えてた…?ノートの端っこに「バズる!」って大きく書いて消した跡があるけれども。ダサいわよぉ。

 幸子:ダサいなんて屁でもないわよ。まあとにかく、またポエムができたらこのノートにしたためるわね。

 文子:投稿したリンクをスマホに送ってくれたほうが嬉しいのだけど。

 幸子:え…、でも、…創作過程の情緒があるほうがいいかな…と。
 
 文子:いまの表情、「文子にそんなスマホの技術があるの?!」って見下してたわよ!

 幸子:そんなことないわ。…次はスマホでやりくりするから。こんどからあたなの意見ももっと取り入れたいと思うの。次の題材は「苦労した自慢=(イコール)人として立派と思ってる人」について書こうと思う。よかったら意見を聞かせて頂戴ね。文ちゃん!

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