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「#11 新聞配達のバイクが朝を吹き出して行く」


 学校が休みの前日には、夜中によく友達の家に集まった。高校に入りそれぞれの新しい生活が始まっていたが、それでも僕らは地元の仲間と一緒に過ごす夜が好きだった。メンバーは四人で、皮肉屋のメガネと、読書家の坊主、人見知りのキャプテンと、古着好きの堅物という構成であった。この四人で地元の寝屋川から南港まで五時間かけて初日の出を見に行ったエピソードは、日本版「スタンド・バイ・ミー」と言っても過言ではないだろうか。
 僕らはコンビニでコーラや菓子を買い、その日に親の許可が下りた仲間の部屋で、未来の話も、過去の話も、今日学校であった話も、全てのことを語り合い、論じ合った。
 読書家の坊主が俺たちは革命を起こせると言えば、皮肉屋のメガネはそんな凄いメンバーがなんで寝屋川だけに集まってるねんと反論する。この四人やからこそお互いが刺激し合い、それが加速度的な成長に繋がって行くのだと読書家の坊主もさらに負けじと主張する。古着好きの堅物はお互いの意見を聞きながら、今の言い方はあんまり良くないとか、相手の話をちゃんと最後まで聞けと、父親のようなスタンスで口を挟んでいた。僕はリビングで寛ぐおっちゃんやおばちゃんに、この会話が聞こえてないだろうかと気になって、あまり自分の意見を言えずにいた。
 このままヒートアップしていくかに思えた議論は、「そういえばさっき来る途中に中学時代のクラスメイトの女子を見かけた」という、古着好きの堅物がトイレ帰りに放った何気ない一言で一変する。

「は?何でそれすぐ言わんの?可愛なってたん?」

「どの道で見てん、まだ間に合うんちゃうんか!」

「待って、この時間にその道通ってたってことは、ガスト行ってる可能性あるぞ!」

「あいつがおるってことは、中学時代に仲良かったあの二人もおる確率高いで!」

「おいおいお前らいくら持ってんねん、ガスト行くぞ!」

 僕らは立ち漕ぎで自転車を走らせ、疾風となってガストに到着する。すぐには入店せず、店をぐるりと二周ほどして窓の外から店内の様子を確認する。

「あかんあかん、おらんぞ」

「おい騙されたやんけ、あいつ何やねん」

「騙してない、俺らが勝手に言うてただけや」

 そして僕らはまた部屋に戻り、グダグダと文句を言いながら酒のように炭酸のジュースを煽っていた。古着好きの堅物が見かけた女子の流れから、中学の同級生で誰が一番可愛くなっているかという話になり、様々な女子の名前が飛び交う。そうしてる間になんだか我慢が出来なくなって、もうこれはちょっと早いけど同窓会を開くしかないという結論に至る。ただし人数が多過ぎても大変やし、嫌いな奴とか来られても嫌やからと、男子も女子も人気があり目立ってた者だけを選抜した『メジャー同窓会』の開催を画策した。
 ここからさらに盛り上がっていくように思えた『メジャー同窓会』構想だったが、今度は読書家の坊主が放った一言がきっかけで暗礁に乗り上げることとなる。読書家の坊主は神妙な面持ちで、「その場合、俺も同窓会に呼ばれへん可能性あるんちゃうか?」と言ったのだ。
「まぁ、、それはメンバーとかこっちで決めることやから・・」とか「そうそう、あくまでもお前は主催側の人間やから・・」とフォローはするが、誰もそんなことは無いと言ってあげなかった。僕は何も言わず心の中で、サッカー部のキャプテンと中学生では身長が高かったという点で、メジャー同窓会に招待される最低限の条件を自身はクリアしてるだろうと考えていた。

 それからは高校のクラスメイトに変人がいるだとか、通学電車で毎回見かける可愛い女子の話やらと続いていく中で、僕らに残されたタイムリミットは後どのくらいなのだろうかと不安になった。友人のベッドを背もたれにしながら、カーテンの閉められた窓に視線を向ける。雑に閉められたカーテンの隙間からは夜の闇がこちらを覗いている。
 大丈夫、この夜はまだ続いて行く。そう思った矢先に、遠くでバイクのエンジン音が響いた。その音はいつも僕らの夜を破り、朝の訪れを告げる。どんなに盛り上がった夜でも、その合図を聞いた瞬間に何だか白々しい気分になってしまう。
 カーテンを開けると闇の先に光る新聞配達のバイクが、排気口を震わせ朝を吹き出しながら走り抜けて行った。



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