「#1 消された写真の方が私の写りは良かった」

 今日は本当に楽しかったね！智美が全然変わってなくてな〜んか安心したなぁ！ねぇお互い忙しいだろうけどさ、こうやって月１〜２回くらい二人でお茶しよう!

 久々の再会なのだろうか、隣のテーブルでは２０代後半とおぼしき女性が二人で思い出話に花を咲かせている。

 智美はさぁ、まだ高橋くんと付き合ってるの？え〜そうなんだ！高橋くんはカッコいいし、頭も良いし、二人はお似合いだって勝手に思ってたんだけどなぁ。インスタで高橋くんと繋がってるんだけどさ、な〜んか最近アップする頻度が少ないなぁとは思ってたんだよね。そっかそっか、まぁしょーがないよね。じゃあもう二人は全然会ってないんだ。

 心配しているような言葉やトーンとは裏腹に、嬉々とした面持ちで喋り続けている。

 ねぇ写真撮ろうよ！インスタに上げたら皆んなびっくりするよ！よし子とか真里の反応が楽しみ。

 そう言うと女はスマホのインカメラに変え、上半身をテーブルに乗せるように身を乗り出した。向かい合わせで座る友達は撮影やインスタへの投稿を苦笑いで了承し、同じようにテーブル中央へと身を乗り出す。カメラは丁度僕の方向を向いていて、インカメラだと分かっていても少し緊張した。

 何か智美ちょっと目瞑ってない？もーもっかいね！

 え〜これちょっと暗いよね？もうちょっと明るくしてもっかい!

 めっちゃ後ろの店員さん気になるんだけど、もっかい!

 う〜ん私はいい感じだけど智美が変だからヤダッ！もっかい!

 うわぁ〜、これどっちもイマイチじゃん、もっかい!

 このアプリがダメなのかもぉ、違うのでもっかい!

 なんか二人とも体の位置を同じにした方がいいかも、どっちかの顔が大っきく見えちゃう、もっかい!

 これなんかさ、二人とも怒ってるみたいだよね、もっかい!

 見なくて大丈夫、これはもう確認する以前だわ、もっかい!

 ごぉめ〜ん、私カメラ目線してないよね？もっかい!

 あ〜めっちゃいい感じ！えっ智美すごい痩せて写ってない！？ずるいっ!

 じゃあこれインスタに上げとくねっ!

 女はまたそれに苦笑いで答え、上半身を支えていた左肘をさすりながら体勢を戻した。写真を撮った女は嬉しそうにスマホを操作している。アイスコーヒーを飲みながら窓の外を眺めて待つ女の表情を見て僕は文章を打ち込む。

 #1 消された写真の方が私の写りは良かった